No.108 Bledisloe Cup in Japan (Part1)

Bledisloe Cup。
日本で開催されると聞いた時にまず思ったのは、子供達にぜひ見せてあ
げたい、という事(No.97)。
(後述の問題等により)結局、観戦に行けたのは13名のみでした
(穂高人数。三郷でもその位、行かれたのかな)。行った子供達は「と
ても楽しんでいました」との事で、何より。子供達が興奮して楽しんで
良い思い出を得て貴重な経験が出来、心から嬉しい。だから、楽しんで
くれた事に水をさすつもりは全くないのです。ただ、見過してしまいた
くない事が幾つもある。

チケットの価格。以前書いた通り高すぎる。Bledisloe Cupの「格」とい
うものを考慮しても、NZや豪で開催される際と比べて素直に頷ける額では
ない。なんでこういう価格設定になったのか、大いに疑問。
けれど、もしもあえて格というか特別感を喧伝して、それがゆえにこの
価格なのだ、というのならばとことん格にこだわるべきなのだ。なのに、
一方で全く矛盾する事を平気で行なっている。そこが問題。
そして、少し考えればそういうどっちつかずの事態になってしまうのは
当初から予測出来る事なのに、コントロールする人が誰もいない。それ
が最大の問題。

「Bledisloe Cupを一体なぜ日本で開催するのか?」と言えば、
「日本人に“ホンモノのラグビー”を見せよう」「ラグビーの面白さを
理解してもらい、人気を高めよう」という意図に他ならないわけでしょ?
(私個人としては、W杯招致の時と同様、そもそも、この、見世物興業的
発想自体に反対ですが。) ならば、W杯招致でやったように、“日本の、
アジアのラグビー発展のため”の印籠を掲げ、この際ABsやWallabiesには
サーカスのライオンだか象だかを演じてもらうのだと割り切り、そういう
方針で理解を求めて、チケットは子供無料、大人も格安に設定し、ごく一
部にだけVIP用シートを設けてそこだけは特典もつけてプラチナチケットに
する、みたいな感じにし、原則として“誰でも気軽に行けるイベント”に
しなくては意味がない。
「行きましょうよ」と誘ってもラグビースクールの生徒やコーチが「高い
し‥」と尻込みしてしまうようなチケット価格で、どうやって、ラグビー
に関心のない人達を新たに誘う事ができるというのか。

結果、一旦高額チケッを販売しておきながら、開催間近になっての、多
量の無料招待券、優待券の発行という事態になる。無料招待をするなと
は言っていない。なんで、最初からしないんだ、ってこと。
正式発表は遅かったものの今回のBledisloe Cup開催はかなり前
から決まっていたわけで、ならば年度始めにきちんと、「この日は全国
のスクールやラグビー部を招待します」と各スクールや各高校等に通知
しておくべき。そうしておけばスケジュール調整もうまく出来て、もっ
とたくさんの子供達や高校生、指導者、家族達が観戦に行けただろうに。

二兎を追うもの‥の喩えはこの場合適切でなく、むしろ、あちら立てれ
ば‥のほうが近いかもしれないけれど、つまり、「日本でやる」という
事に意味に持たせるのであれば、Bledisloe Cup自体の価値やら格やらは
吹っ飛んでしまうし、「Bledisloe Cup」(或はW杯としてもいいけれど)
そのものの価値にこだわるのであれば、それを開催する、ホストする、と
いう事は、日本の現状では無理なのだ。
その無理を強行してしまった結果が、今回の、Bledisloe Cupであって
Bledisloe Cupでない、とも評されてしまう※ような“イベント”。

Bledisloe Cupを開催する資格の無さ。いや、この際、資格についてと
やかくは言わない。資格の有無はともかく実際に開催すると決まっ(て
しまっ)たのだから。なら、相応の対応、段取りを、真剣に準備するべ
きなのに、関係各位が何をどう頑張ったのか、私には全く見えてこな
い。相変わらずTVや新聞等での扱いが極めて少ない。それだけでも何たる
無策か、と言いたい。
対マスコミ、つまりPRのための貴重な機会であったはずの共同記者会見の
様子がNZの記事に出ていましたが、これがまた酷かったようです。
会見にABs側の選手を代表してRichie McCawとConrad Smithが出席した
らしいけれど、質問はMcCawに集中し、Smithには誰も何も尋ねなかったと
か(「うっそー!? 信じられない!! ああ、許してConrad」‥顔から火が出
る思い)。くだらない質問が延々続いていても何とか紳士的に応じていた
McCawが、「土曜日の試合ではハカももちろんやってくれますよね、せっか
くの機会だし、とりあえず色々見せてほしいですから」みたいな言われか
たをした時にはさすがに眉をつりあげたとか(「ひぇー!? 信じられない!!
ご免なさいRichie」 ‥顔から血の気が引く思い)。いつ終わるともしれ
ない長時間(通訳を介するため通常の3倍くらい時間がかかるらしい)の会
見で、更には、あの日本協会会長が“しゃしゃり出て来て”(とは書いて
いなかったが)15分間スピーチを行なったとか(信じられないとは言いま
せん、如何にもやりそうな事。しかし、「もう、これで、2019年までABsは
日本に来ないな」‥すっかり暗澹たる気持ちに)。
そんなわけでこの合同記者会見は、「もし、今回の試合は通常のBledisloe
Cupとは違うBledisloe Cupだぞ※、と思い出させてもらう必要のある誰
かがチームにいたとすれば、この記者会見こそまさに、それを思い出させ
てくれるものだった」などと報じられる有様。

NZ国内では、既にABsが3戦3勝で今年のBledisloe Cupカップ保持を決めて
いる事もあり、4戦目のこの試合は実質的意味のない試合、と位置づける人
が多かったよう。しかも場所が日本という事で(「日本ではラグビーはあ
まり知られておらず、Bledisloe Cupの記事もこんなに小さくしか載って
いません」とNZのリポーターが本国のTVに向かって新聞の紙面を見せてい
たけど、お姉さん、それ、載ってるだけマシですよ)、そんなところで
Bledisloe Cupをやっても日本人にそれがわかるのか?(彼らにとって日
本人は“未開”人種らしい。むべなるかな、でもありますが)みたいな発
言もよく目にした。ただ、ABs自身は、監督のヘンリーさんも主将の
McCawも、このカードは、開催場所や状況にかかわらず常に特別なもの
であり真剣勝負だ、という発言を繰り返していましたが。もちろんそれ
は嘘ではない。彼らとしてはあくまで重みあるテストマッチだし(でな
くてはならないし)本気で試合に臨んだはず。でも、その彼らにしてか
らが「‥やはり」今回の試合は「通常のBledisloe Cupとは違う
Bledisloe Cup」なのだな、と様々な場面で思ったに違いない、と、彼
らの来日中、私はその場面/シチュエーションをあれこれ頭に浮かべて
は落ち込んでました(普段から空想、妄想を膨らませる傾向があるの
に、今回は一層想像力のかたまりと化してしまった)。

ま、日本に対して彼らが悪いイメージしか抱かなかったというわけでも
なさそうで、食事や観光等楽しんだ面も多かったみたいです。街を歩い
ていても常に気づかれる程でなく、かつ熱狂的に歓迎してくれもする、
そのバランスが、常に注目され続けている本国に比べ気疲れせずに済ん
でいい、というのもあるかもしれない。記者会見の不手際はともかく、
全般にABsには比較的不満は少なかったかもしれません。基本的
に日本はABsびいきだし、そのように扱われて嫌な気はしないはず。
試合後の会見で、監督なんか「試合中、観客席から「All Blacks! All
Blacks!」という声援が何度も聞かれた。素晴らしい。日本の観客がど
れほど我々をサポートしてくれているかに感じ入った」とニコニコして
たくらいだけど、ちょっと待った、ヘンリーさん。

Wallabiesはどうなる、って感じですよね。(“ABs陣前にWallabiesが攻
め込んでいる時”に、何度目かのこのオールブラックスコールが起き、私
は思わず「(なんで“ここで”「オールブラックス!」やねん?)GO
WALLABIE! COME ON!」とか口走っちゃいました。
だって‥ABs以外のチームは一体どうなるわけ? 想像のかたまりとなっ
た私の頭の中には、ABsだけにやたら人気が集まって、対戦相手や他の国
への応援がまるで盛り上がらないW杯の図、というのが、いとも簡単に浮
かび上がってしまいます。

ウェーブの連発にも食傷。プレーが止まっている時とかにやるのはイイん
だけど、ゲームに集中したい時でもお構いなしに起こる。何なんだろ、あ
れ。極めつけは、DCがゴールキックを狙っている時。そんな時にするか、
ウェーブ? (それでもきっちりゴールを決めたDC。試合後「日本の観客
がたくさん、オールブラックスを応援してくれて良かったよ」とかって余
裕のコメントをしてました。‥そーか、そーなのか。単に、私が心配しす
ぎなのか‥って、いやいやいや‥。)
早明戦とかでも感じる事だけれど、ラグビーを見たい人が半分、あとの
半分は「お祭り」に来てる。自分達が楽しむ事が第一、みたいなノリで。
もちろん、自分達が楽しむ事は大事だし、お祭りのように盛り上がっちゃ
うのもそれ自体は悪い事ではないし、EnglandにはEnglandのFranceには
Franceの観戦スタイルというか観客のタイプがあるように、日本にも日本
独特のサポートスタイルがあっても構わない。そして、前にも書いたけど、
そういうところからラグビーへの関心が始まってつながっていくのなら、
それでも良いわけだけれど。
しかし、つながっていくのか、本当に。
この協会の体制の下で、ラグビーが健全な形で(っていう言い方も少し
変かもしれませんが)発展していく光景/シナリオが、あり余るほど豊
かなはずの想像力を振り絞っても、目に浮かばない。
いつも日本のラグビーシーンの話題をNZに紹介している日本在中の記者の
人がいて、彼が最近の記事で、今回のBledisloe Cupのオーガナイズをし
ているのがラグビーとは殆ど縁のない電通だというのが疑問だ(色々なミ
スマッチは、それが大きな原因だ)という意味の事を書いていましたが、
電通にやらせる事にしたのはどこの誰?と問うべきでしょう。

試合中のオールブラックスコールに話を戻しますが、オールブラックス
のホームでもないのにあれを聞かされたWallabiesやワラビーサポーター
達は一体どういう気分になったことやら。Tim Horan(豪TVのコメンテー
ターとしてだと思うけど、来てました)が何とコメントしたかと思うと恐
ろしい。「もう、これで2019年まで日本に来ないな」っていうのはひょっ
としたらWallabiesのほうかも。まあ、実際にはこんな試合は日本では生涯
に一度あるかどうかの機会であって、今回が良くなかったから次がない(
今回が良かったら次もある)というモンじゃないのですが。
そう、2019年のW杯を除けば、こんな機会はもう無いかもしれない。
だから、冒頭にも書いたけれど、今回見に行けた子供達は本当に良かっ
たね。
記者会見での『せっかくの機会だし、とりあえず色々』発言はNGでした
が、結果的にはまさに“とりあえず色々”というか、国家斉唱に始まって、
ハカ(これが二度目となる、Richieのリードでした)あり、トライ(ABs
もWallabiesも)ありPGあり、空中タックル/シンビンやラフプレー/小
競り合いまであり(←こういうのを「見られて良かった」とは言わないけ
れど、子供達にとっては「おおおーっ」だっただろうなと思う。笑)で、
おまけにオールブラックスコールやウェーブ(私自身の感想はおいといて)
など、きっととても面白くワクワクと観戦できたのではないかしら。

ただ、残念だったのは、試合後にサインをもらえるような感じじゃな
かった点。私なんぞは、観戦に行く子供達に「試合後は、こーしてあー
して、サインをもらって、サインをもらうだけじゃなくて『end of
year tour頑張って下さい』みたいなメッセージを書いたカードを渡し
てあげて‥」と、ミーハー指南までしていたのに。一生懸命カードを
作って持って行った皆、ご免なさい。
国立競技場の観客席の手前にバーが張り巡らしてあって、選手が近くに
寄って来てくれようにも来られないみたいな、あんなのってちょっと悲
しいよね(;_;)。
確かに選手は試合の後で疲れているだろうから、無理にでも観客席のほ
うに来てサインしろ、とは言わないけれど、日本のラグビーファンに
とっては生涯一度あるかどうかの機会lifetime experienceだと
いう事を考えて、少なくとももっとオープンにしてほしかったです。

他にも色々と言及しておきたい点は尽きないのだけれど、今日はここまで。

                        
                           2009/11/02
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