No.79 大学シーズン終了

 エースでなくとも核。
チーム内に他にもっと目立つスターがいる場合も多いけれど、「主将」とい
う存在には、特別の感慨を抱いてしまう。

 今季各大学のスキッパー達。
 例えば関西学院大学。かっこいい主将(チームメイトから「俺らの主将っ
てかっこええよなあ」と認められていただろうな、と思える主将)がいた(
室屋雅史)。躍進の陰にこの人の献身あり。
 例えば京都産業大学。橋本大輝主将は無名高出身ながら奔放で力強いア
タックで観る者を魅了する選手。その彼が率いたチームはまさかのリーグ戦
最下位。しかし最後の入替戦で、勝利をグイと引き寄せる大暴れ。主将とし
ての責任、存在感を見せつけた。(以下は余談:龍大が負け、悲しくてやり
きれなかったけれど、大西監督のラストゲームに主将として精一杯のプレー
をした彼には文句を言えない。そう、相手が大西監督と橋本君だったから、
だから‥‥怒りの捌け口はやはり同志社に行く(笑)。同志社太田主将ご免
ね。)

 そして関東学院大学。土佐誠。彼については少々長くなる。
関東リーグ戦グループの優勝がかかった、東海大学対関東学院大学の一戦(
11月30日)。トーカイがカントーを下して、誰にも文句を言わせない完全優
勝(昨季は“繰り上げ1位”)をもぎとった。その事には、東海大には、も
ちろん拍手だったのだけれど、しかしそれにしても関東学院。法政戦ではロ
スタイムで逆転負けを喫するも、確かに強さを感じた(しかも未完成の強さ
だったから、もっと強くなれる気がした)のに。別人のような元気のなさ。
太田君の欠場(法政戦途中で負傷リタイヤ)がひびいたのか。でもカントーっ
て他校が羨ましがる(やっかむ)ほど層の厚いチーム、一人二人メンバーが
変わったってどうってことないはずなのに。‥何かおかしい、と、妙に心に
ひっかかってしまった。
 ノーサイド後、うなだれ加減のメンバーの中、土佐主将だけが、ベンチー
コートも着ずにジャージ姿のまま、ぐっと顔をあげていた。精彩を欠いた試
合の終盤、劣勢が明らかな状況でも、彼の表情だけは確かに「主将」の顔ら
しく毅然としていた(毅然としていようという決意が見えた)。けれど、だ
からこそ、こんなんでいいのか?と問いかけたくなった。
 前年度の不祥事とそれにまつわる様々な問題で、今季関東学院の主将であ
る事、が凄く重いのは想像に難くない。でも、あえて、“許されて”舞台に
立つ事ができている、そのプレッシャーと、その幸せと、どっちが大きい?
答えははっきりしてるんじゃないの? なら、思う存分やればいいじゃない
か。そう怒鳴りつけたい(無論激励の意味だけど、怖いオバハンではある)
気持ちに駆られた。(が現実には土佐君との接点はこれっぽっちもないので、
叱咤激励は行き先もなく‥)そして、「大学選手権でのカントーをしっかり
見届けよう」と決めた。
「今日(11月30日)負けてカントーが3位か。抽選会の結果次第では面白い
事になりそう」。

 その予感通り、土佐主将がひきあてた大学選手権1回戦の対戦相手は早稲
田。これはもう、「迷いをふっきったカントーが、力を爆発させて勝利」と
いう筋書きを思い描かないわけにいかない。
12月20日。花園と秩父宮の試合しか予定を組んでいなかったJスポが慌てて
放映を決めた熊谷での“注目の一戦”を、期待して観た。しかし‥‥‥開始
早々に、どうやらドラマは起こらない、と気づく。描いた筋書きが狂った事
を悟る。東海戦で感じた元気のなさは払拭されていなかった。前へ出る執念。
上回ったのは早稲田のほうだった。いや、カントーが“下回った”と言うべ
きか。まとまろうとする気持ち、勝ちたいという気持ち、想いは感じる。
でも、勝つためにはどうしても必要だったはずの何か、が足りなかった。
 試合終了を、そしてカントーのシーズン終了を告げるレフリーの笛。
肩を落とす選手、号泣する選手‥。しかしやはり土佐主将は顎を反らして唇
を固く結ぶ。フィールドの中央で、戦い終えた両フィフィティーンが向かい
合う。主将同士が対峙し歩み寄る。刹那、堪えきれず堰を切ったように敗将
の目に涙が溢れた。でも豊田主将と抱き合った後は、又、歯を食いしばって
上を向いた。

 試合後の会見で声を振り絞るようにして語った言葉。
「ラグビー人生で、こんなに辛い一年はもうないと思う」

 主将である事の重さは想像に難くない、と、さっき書いたけれど、“こん
なに辛い”の切実さは、これっぽっちも接点のない他人には、率直に言って
理解し難い。そこまで辛いものなのか、何故そこまで泣くまいとするのか。
 どうしても理解できず、宙ぶらりん(その結果がNo.72の“番組変更”)
になってしまっていたけれど、ヒロちゃんが出ているというので四苦八苦し
てやっと見られるようになった(←「絶対見たい!」と一念発起しないとで
きないほどの機械音痴‥)花園特設サイトの動画コーナー、そのバックナン
バーに松原君(工大高→明大→神鋼)の『主将である事』というビデオを見
つけた。(※最下部にリンクつけました 管理者注)
 主将である事とは、常に前を向いて歩き続ける事ではないか、と松原君。
工大高主将の年、花園2回戦で初戦敗退の屈辱(これ、私、現場で見てまし
た‥)を味わった彼は、呆然としながらも、チームメイトに「泣くな」と声
をかけたそうです。「泣くという事は負けを完全に認めてしまう事になるの
で、泣けない、と思った。」「皆(チームメイト)にもその事を伝えたい、
と思った。」これを見て、今更ながら、(ケースバイケースではあるにせよ)
主将となる人には主将としての決意があるんだ、と、いや、主将であるため
に、決意が必要なんだ、と、思い当たった。

 土佐主将の“決意”はおそらくこうだったのだろう。誹謗にもトラブルに
も惜敗にも惨敗にも、涙など見せるわけにいかない‥。
 主将である事とは常に前を向いて歩き続ける事、だから胸をはって顔をあ
げていた、そうしていながら、押し潰されるそうになる自分と、このシーズ
ン、彼は必死で向き合ってきたのだろう。
 その必死さを想像したら、“元気のなさ”の理由も腑に落ちた。ホントは
今にも壊れそうなチームを、いつもと変わらないかのようにかろうじて保っ
ていたのは、“いつもと変わらない、強いカントー”という、他者からのそ
して自分達自身の信頼。それが、法政に負けた、その事実によって壊れた。
あの法政との一戦、私は(こんなにいい試合なんだもの)勝ち負けなんてど
うでもいい、と思いながら見ていたけれど、カントーにとっては、どうでも
いいどころか奈落の蓋だったんだ、と今は思う。普段の年ならば負けた事を
バネに更に強くなったであろうカントーが、今年は、ここでポキッと折れた‥
少なくとも、折れた者が何人もいた‥のだ、と思う。“元気がない”なんて
生易しいもんじゃなく、チームが、“壊れていた”。

 「一回戦で早稲田と当たる事になって、チームは変わった」。一旦は折れ
た気持ちがようやく一つになったのだろう。だけど、先に書いたように、ま
とまろうとする気持ち、勝ちたいという気持ち、それだけでは不十分だった。
シーズン途中で失くしたものを取り返すには、本当の強さを取り戻すには、
遅すぎた、間に合わなかった。勝つためにどうしても必要だった何か、それ
は“自信”だったのだと思う。自分の強さを信じる気持ち。自分達を信じる
気持ち。今年のカントーにはそれが無かった、或は壊れた。だから失速した。
弱かった。 ‥と、自分なりに結論づけてはみたけれど、折れてしまった選
手達が悪かったんだ、とは言い放てない。折れないでいられるのは余程強い
人だけだろう。
 何か不祥事が起きる度に釈然としない気持ちにさせられる。不祥事自体は
弁護する余地のないものだけれど‥「連帯責任」って何なんだろーな、如何
にも責任を果たしたというポーズで多くのいわば無実の人々を巻き込んでそ
の挙げ句に却って本当の責任の所在や根本的な原因をうやむやにしてるだけ
なんじゃないのか。そんな事今言っても仕方ない。だけど、主将の「こんな
に辛い一年」という言葉は、あまりに切なかった。

 今季土佐誠が静かだったのを、彼が「大人」を演じようとしているせいだ
と感じていた(尤も22歳って言えば当然大人じゃん、と言われそうだけれ
ど)。そして、甘やかすなと言われそうだけど、ちょっとこう思った。ラグ
ビーやってる時くらい子供でいいんだよ。

 というところで(これだけ長く書いたけど、今日の主役は土佐君にあら
ず)、「子供」の登場。

 早稲田大学。豊田将万。
今季何度か、彼のリーダーとしての資質を問う声を聞いたけれど(プレー
ヤーとしての資質への疑問の声は皆無)、早稲田には彼でいいんじゃないの、
と、思っていた。今年、帝京に負け明治にも負け、“成績不振”の責任を追
及された事もあった(推測ですが、今日の優勝インタヴューで「僕なんかが
キャプテンやってていいのか、と思った事もあったけど」とのコメントが出
たので)かもしれないけど、少なくとも、最終的に早稲田を優勝させたのは
彼、と私は思ってます。     
 準決勝の東海大戦でも、彼ががむしゃらに行く事によって、相手にリズム
を与える前に自分達のペースをつかんだ。もし、もっと「大人」のキャプテ
ンのチームだったなら、東海大戦は全く違う展開になっていたかもしれない。
 決勝の帝京大戦も。今日の豊田君は、Man of the Matchのトロフィーを
2つか3つあげてもいい働きぶりだった。そう言えば去年の準決勝、対帝京戦
でも“救世主”は彼だったな(No. 48)。

 早稲田の強さは、一種“子供”の強さ(皮肉や嫌みではなく、強さを認め
て言ってるんですが)。今日の決勝に至る大学選手権での戦いぶりに、そう
つくづく感じ入った。アンチWの私は、早稲田の毎年のスローガンっていう
のもいちいちカッコつけてるように感じられて嫌いなんですが(坊主憎け
りゃ‥っ てヤツ?)、今年の“ダイナミック・チャレンジ”(←何でシン
プルに“チャレンジ”じゃないんだ。わざわざダイナミックとつける感覚が
どうにも気に食わない)、確かに、負ければ終わりの選手権に入ってから、
一番チャレンジしてたのは早稲田。そして、それができたのはキャプテンが
彼だったからでは、という気がします。
 うまく言えないけれど、ラグビーって不思議なスポーツで、大人としてラ
グビーをやっていても本当の大人になりきれなくて、逆に、子供みたいに必
死でやる事によってはじめて大人になれる、そういうところがある。
 大学選手権のワセダとカントー或はワセダとトーカイで、早稲田が勝って
いたのはその部分だと思った、早稲田には子供の必死さがあるんだよな、と。
豊田君やら有田君、ありゃー、でっかい子供です、めちゃくちゃすごい子供。
すごい子供に、大人は勝てないんだよね。
 実は今日は、帝京なら勝てるかも(帝京も全然大人じゃなくて子供ではな
いかという気がしたので)、と思っていましたが、帝京は、初めての決勝で
すごく硬かった、プレーも試合運びも。チャレンジしていけば十分勝てたの
に、ともったいなかったけど。‥でももういいや、今日の主役は豊田君、と
いうことで。

 大学選手権に関連してついでに一言(完全に余談です)。
誰も不思議とは思っていない事ですが、私的に予想外だったのは同志社が東
海に負けた事。あの関西リーグ最終戦以来、同志社こそ「恐るべき子供」こ
れは大学選手権の大穴では、の予感がしていたんですが、うーむ。いっそ大
穴として選手権をとことんひっかき回す位に暴れ回ってくれたなら京産大に
勝った事も許してやるのだが、中途半端なところで敗退してしまったので、
‥やはり怒りはおさまらない(爆笑)。

 さて、高校に続き大学シーズンもこれで一応幕。
 それにしても‥高校は、個々の選手ももちろん魅力的だけどやはり「チー
ム」の良さというのがすごくあって純粋に声援を送れるのだけれど、大学
は‥何だか、体制(指導陣を含めたスタッフの質や量、環境や金銭面のバッ
クアップ力など)にこれだけ差があるのが見えると(※これは、優秀なス
タッフを揃えて十分な資金力をフル活用している学校に対して反発している
のではなく、むしろ逆です。個人的に応援したいのに、ちゃんとしたスタッ
フを揃えず明確な方針も出さず金も出さずスカウティングもやる気あるの
か?と思ってしまう某大とか、何とかしろ、と言いたい)、「チーム」を応
援する事に難しさを感じます。来季は、◯◯大学を応援するとかアンチ◯◯
とかでなく(チームに関係なく)、ラグビー、や、選手、を見る事しかでき
ないかも。それでも龍大には来季こそAリーグ復帰してほしい‥と、どうし
ても最後はこの話に戻って(笑)おしまい。最近怒濤の更新だった「ノート」
も多分これでしばらくお休みモードに入るかと思います、管理人さんもゆっ
くりお休み下さい(笑)。

                        
                           2009/01/10 佳
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※ 「主将であること 松原裕司」MBSラグビーサイト「花園伝説」
                                            

かよこのノート