No.78 花園決勝

 「早明戦」は毎年12月の第一日曜と決まっているけれど、「花園」はスケ
ジュールが曜日ではなく日付によっている。年末年始の休暇と上手い具合に
はまってくれる年もあるとはいえ、どうあがいても、7日といえば世の中が
動き出している即ち仕事が始まっているから(5日もですが、とりあえずま
だ“仕事始め”だったので「仕事<花園」モードで乗り切りました)、浸り
きって観るのは難しい。その事がちょっと残念(だけど、もし決勝まで
どーっぷり浸ってしまったら、次の日とかにサッと「社会復帰」するのが困
難になるだろう‥←高校ラグビー熱でよれよれになっている自分の姿、あま
りにも容易に想像できる‥笑‥)。

 決勝。常翔啓光学園対御所工・実。

 御所の事、「冷たく鋭利」「氷」等々、暗い形容で書いてきましたが、
違った。当たり前の事だけど、全然普通の高校生だった。9月15日は少し雨
が降っていてしかも夕方陽がおちてからの試合だった、だから暗く見えたん
だわ(爆笑)、‥というのは冗談だけど、黒い悪魔でも暗殺者でもない、た
だの高校生(しかも出場校平均以下サイズの)。
そうしみじみわかった試合だった。
 「‥天性のSOってこういう子の事なんだなあ‥」と溜息をついて見ていた
吉井君の、パスが決まらない、キックの精度が狂う、判断に誤り/迷いが出
る。それだって、“カーターも人間”、当然の事なんだ。
 正直、序盤から啓光が圧倒する内容だったので、これはもう啓光が好き放
題やれる試合になりそう、意外にあっさり決着がついちゃうんだな、と思え
て、あまりドキドキハラハラはなかったのだけれど、その中で、果たして御
所がどこまでやれるのか、に興味を持って見ていた。見事なラグビーをして
いる。きちんとやるべき事をやり、ポジションをとり、ひるまず攻める。(
こんなちゃんとしたプレーのできる大学生が果たしてどの位いるか?と思い
つつ見続ける。)だけど、少しずつ少しずつ、精密機械のようだったアタッ
クが、ディフェンスが乱れてくる。それ程に啓光が力強かった、と言うべき
か。それとも、この啓光相手にここまで食い下がれるのを見事、と言うべき
か。
 今日「普通の高校生」だった御所を見て、語弊を覚悟で言うと力の対等と
いう意味では事実上の決勝カードはやはり啓光対東福岡だったな、という気
がする。でも、その上であえて言う、「御所が決勝に出て来て良かった」「
このチームが花園決勝を戦ってくれて嬉しい」。出て来る事に意義がある、
なんて言っているのではない。「こういうチームにこそ栄冠がふさわしい」
と言おう。こういうラグビーをやっていて、それでも(身体が小さい故に、
或は、初めての決勝での緊張感故に)負けるんなら、それでいいじゃん、と
思う。堂々と負ければいい。そして、今日の御所は堂々と負けた。あっぱれ
です。

 今日のこの一戦に関しては「啓光のゲーム」だったけれど、御所が絶対啓
光にかなわないかというともちろんそんな事はなくて、今日の、完全に「啓
光のゲーム」だった試合に於いてさえ、あとちょっと神様が味方してくれさ
えすれば御所のラグビーが開花する、という場面もあった。それにしても最
後のアタックの美しさ(←相変わらず他の言葉が思いつかない)。永久保存
版。
「普通の高校生」は、普通の高校生とは思えないほどやっぱり見事だった。

 常翔啓光学園。
 御所が負ける事があるとしたら、“まだ地に足がつかない立上がりの段階
で”(No.66)、相手が力の差を見せつけるようなゲームをした時だろうと
漠然と感じていたけれど、啓光がしたのはまさにそれ。早々としかけてねじ
伏せた。恐らくは、そういうゲームをしようというゲームプランだったわけ
ではなく、湧き上がるようなひらめき。ぐんぐん、自然に力が出てスピード
に乗れてステップが踏めてパスがつながって、何でもできてしまう‥花園マ
ジックならぬ啓光マジック。啓光にはそういうところがありますよね。3年
前に優勝した時のチームも、大阪決勝で「運良く」勝って辛うじての花園
だったにもかかわらず、あれーここ(決勝)まで来ちゃったという感じで最
終決戦の舞台に立ったら、もう自分達が勝つ事を信じて疑わない強さがあっ
た(そう、今日の試合の後で杉本監督が「勝ちたいという気持ちが少しだけ
こちらが上回っていたのでは」と仰っていましたが、私から見ると、勝ちた
い気持ちがあったのは御所で、ケイコーは「勝ちたい」じゃなくて「勝つ」
と信じている感じがしました)。今年のチームも、3回戦迄は「ホントに強
いの?」と疑ってしまうような面もあったけれど、階段が高くなるにつれ自
分達の器もどんどん大きくなってきた。この吸収力も、やはり高校生ならで
は。たまりませんね、高校ラグビー。

 今季の高校ラグビーシーズンはこれで幕だけれど、もちろん来季も益々面
白くなる事でしょう。いや“来季”じゃなくて、殆どのチームがもう既に走
り始めている。
常翔学園もそう。走り続けてほしい、来年の今日を目指して。    

                        
                           2009/01/07 佳
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