No.81 東芝ロアマヌ選手の大麻問題について

 ロアマヌ選手の大麻陽性問題、本人が「覚えがない」と言っているとの
事だったので、そうであれば何かの間違いであってほしい、と儚い希望を
持っていましたが、今回の発表では「六本木で隣に座った見知らぬ人から
煙草をもらって吸ったら変な味がした」だと。‥まいったな。
 能動的に意図して大麻を吸ったわけではない、というのが主旨なんだろ
うけど、これを聞いたら、あまりの自覚の無さ/自己管理の甘さに、同情
的心情も吹っ飛んだ。で、もうこの話については書かないつもりだったの
ですが、あるきっかけで再び考え始めたので少し。

 まず、何か起きた時に監督責任を問うというのだったら、逆に、チーム
に属する人間に対して親身になって世話を焼く「指導」や「教育」のあり
方/必要性を先に考えるべきでは、と思う。例えば高校生のチームならば、
そうあるべきだろう。やってはいけない事を誰かがすれば本気で怒り、泣
いて諌める、そして、あるべき姿を自ら示す、そういう指導、教育。指導
者。仲間。
 でも「東芝」(社会人チーム)がそこまでするのか? してくれる、と
いうのなら良い。20歳になっていようが30代だろうが、チームのメンバー
を身内として(子供や弟子のように)とことんケアしフォローし指導教育
する、というのなら。
 そう。そういうチームだったならば、誰かがこういう問題を起こした時、
@「保護者」が出て来て「すみませんでしたっ!」と頭を下げ、
A「このアホが! なんちゅう事をするんや!」と本人にビンタを食らわ
 し(た上で皆に改めて頭を下げさせ)、
B「この上は、せめてものお詫びに、日本選手権を辞退します!」と言い
 切る、
という流れに不自然さはない。はず。それなのに、
実際には、
@謝罪会見 A本人への処罰 Bチームとしての責任 という形をとって
いるものの、@の「すみません」に心から自分の事としての誠意が感じら
れない(それも当然。現実に彼らは選手に対しそこまで親身になる必要や
義務を負っていない。ラグビー協会に至っては何をか言わんや、の態度で
ある)。
A「このアホが! なんちゅう事をするんや! (お陰でこっちはエライ
迷惑や)」と、内心では思っているだろうけれど、愛のこもったビンタは
恐らくない。代わりにあるのは、処分の通告だけ。(本人の自業自得とは
言え)愛のかけらもない冷たい対応である。
B「保護者」や「家族」が、真に自分の問題として受けとめているからで
はなく、ただ、体裁を整えるためだけの責任のとり方。
‥だから、何度も繰り返していますが、釈然としない。

 監督責任なんて言うんだったら、さっきも書いたけれど、徹底して指導
教育すると同時にとことん面倒もみるべきなんだ。そして、もし何か起き
てしまったら、えらいこっちゃどうしよう、とあたふたしたりせず、潔く、
心から謝罪すべきだ。いっそ、「すみません! この度はこいつがとんで
もないバカをやらかしまして。皆さんのお怒りはごもっともですが、今回
の件は監督(上司)である私が全責任をとりますので、こいつにはもう一
度チャンスを与えてやって下さい。金輪際こんなバカな真似はさせないと、
私が命にかけてお約束します。それから他の連中には何の罪も落ち度もあ
りません。どうか私に免じて仲間連中には累の及ぶ事がないようお願いし
ます!」くらいの事を言ってほしい。
 落語なんかだったら(つまり一昔前の日本なら)弟子のためにこういう
タンカを切る親方がいてくれるんだけど、現代の日本にはそういう親方は
期待できない(でしょう)。
 だったら「現代風に」割り切って、処分も事務的に行なえば(今回で言
えば、大麻吸引が目的ではないが結果として大麻成分を摂取する事となっ
た。ドーピングの意図は認められない。常習や所持もなく初めての違反で
ある。等から「3ケ月の出場停止処分」が相当とのこと)それで良いので
は。「東芝」が“誰も喜ばない”日本選手権辞退をする必要もないし、ロ
アマヌ本人も、会社を解雇までされる必要もなく、協会の規定通りの処分
に服した後には復帰の機会を与えられる(その後に皆から見直してもらえ
るかどうかは本人の精進次第)。

 一旦は同情も失せたのに、こんな「ちょっと甘いんじゃない」と言われ
そうな事を書くのは、再び考え始めたらどうしても、彼、がこれからどう
なってしまうのだろう、という事が気がかりだから。
 冒頭に書いた通り、彼にトップレベルのスポーツ選手としての自覚と自
己管理意識が欠落していた事については、弁護の余地もないと思う。だけ
ど、「バカな弟子ほど可愛いってよ、全く因果なモンだぜ」と悪態をつき
つつも必死で立ち直らせようとしてくれるような「親方」が不在で、それ
どころかあっさり「解雇」で縁を切られてしまい、後ろ指をさされるリス
クを背負ってまで彼を拾い上げてくれるような「よその親方」がいるとも
思えないし、これが「普通の」日本人ならまだしも、ラグビーで日本に来
た外国人、なのだから、尚更「再出発」は難しいに違いない。一体彼はど
うなるのか?
 「東芝」は、ロアマヌ選手の解雇で「責任」をとったつもりなのでしょ
うが(別に「東芝」に限らずどこのチームであっても同じだろうけど)、
選手に対する「責任」は誰がとるんだろう。問題を起こして迷惑をかけた
選手だから、誰もそんな人間に対する責任などとる必要はない、ってこと
ですか。
 善悪だけで彼を断罪する人達は、彼の将来を想像してはみないのだろう
か。人を裁く時、一々、将来が‥なんて言ってもしょうがない(多分私は
裁判員には向きません。籤で選ばれても審査不適格で落ちるでしょう)と
はわかっているけど、ジャン・バルジャンが銀の食器を盗んだ事が罪なの
ではなく、彼にそれを盗ませる世の中である事が悪なのだ、という視点を、
私達は忘れてはいけないと思う。 
                        
                           2009/02/18 佳
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