No.82 いつでもいつまでも変わらない
単に強い、じゃなくて、チームの個性。それがあるからこそ、「◯◯(
チーム名)ってイイよね〜」(とりわけ高校ラグビー)。
“個性”は“伝統”という言葉に置き換えられるかもしれません。 <◯
◯ラグビー>と聞くだけでふっと情景が浮かんでくるような、特有のスタ
イル。
だけど、スタイル以上に大切にしたい(してほしい)のがスピリット。
どういうラグビーをしたいのか、しようとしているのか。もちろん、「彼
らは、今、どういうラグビーをしようとしているのか」「彼らにとっての
スピリットは‥」などと探りながら見るわけではなく、ただ、見ている内
に何か心に響いて来るものがあって共感する(或は、ホントに勝手な想い
だけど「◯◯にはかくかくしかじかのラグビーをしてほしいなあ」などと
感じてしまう)、という事なんですが。
「ああやっぱり◯◯だなあ(いいなあ)」「おー、今年の◯◯には***
だけじゃなくて+++さえ感じるぞー」と嬉しくなったり、「今の◯◯に
は◯◯らしさが感じられない。ただの小粒のオールブラックス(あくまで
喩え)みたい‥」とがっかりしたり。
つまり、チームの信念、ラグビー哲学(文字にすると理屈っぽいけれど)
が伝わって来ないと、いくら上手くても強くても、そのチームに魅力を覚
えない、好きになれない。
「高校ラグビー」「好き」と来れば、常翔学園でございます(笑)。
先月、野上先生が新チームの府予選のDVDをお送り下さいました(m(__)m)。
ワーイとばかりに早速見たところこれが、「ああやっぱりNavyRedsだなあ」
「おー、今年はちょっと×××が感じられるぞー」といった、“見ている
内に心に響いてくる”悠長な印象を受ける間もない、怒濤のスピードでの
前、前、前。ちょっと面食らうほどでした。
‥凄い、このBKの決定力! FWも含めて60分間走りきれる力とスタミナ!
‥いやいや(落ち着け落ち着け)、これは力の差がありすぎるから、次(
準決勝)見てみよう。
‥やっぱ凄いんでは!? きゃー!!(お、落ち着け落ち着け←笑)。
しかし。
3試合目、即ち決勝(対大阪朝高)では、相手のプレッシャー下にミスを
頻発。まだまだ修行が足りん、という実態を露呈していました(無礼な発
言ご容赦を)。
実は最初の試合で「凄い。けど力任せで荒削りー(まあ、もちろんまだ
まだこれからだもんね。これから段々彼ららしさ、が出てくるんだよね)」
と思ったりもしたのですが、2試合目を見たら、「‥ここまで突き抜けて速
く強ければ、このチーム、何か小難しい事を考えたりやったりする必要、
全然無いかも」。<ひたすらガーッと前に行く>がイコール<らしさ>だ、
ってのもアリなんじゃない? という気がしました。
で、3試合目、“準決勝までと同じプレーが出来ない”彼らを目にして、
「そーだよな、(朝高クラス相手に)これまでの試合と同じような、止まら
ない(相手に止められない、というだけじゃなく、とにかく60分通して、
止まっている状態が殆どない)ラグビーが出来たら、余りに凄すぎて、ど
うしようって舞い上がっちゃうもんな(私)」と納得し、いつものごとく
「これからこれから」と考える自分がいる一方で、「‥いや、相手によっ
て自分達が変わってしまう強さなのなら、それは<らしさ>なんて呼べな
いものだ。相手が1や2の時、或は仮に相手が8、9迄通用するとしても、相
手が10になったら発揮出来なくなる、そんな強さだったら、単なる力任せ、
“力比べのラグビー”に過ぎない」と考える自分とがいました。
力は無いよりあったほうが良い。そしてせっかく力で上回っている時、
それを活かさないテはない。けれど、何度もしつこく書きますが例の「技
のラグビーは研究されるが、力の差は対応できない」という方向には絶対
行ってほしくない。
力で凌駕すれば勝てる。それは確かにそうだ。力、パワー。身体の大き
さ、強い足腰、スピード、ヒットの強さ、腕っ節の強さ、スタミナ‥、と
にもかくにもそれらで圧倒できさえすれば、大抵の相手に勝てる。だけど、
より力を持っている相手が現れたら?「力の差は対応できない」??
そんな“力比べのラグビー”には、ちっとも魅力を感じない。自分達より
弱い相手には強い(勝つ)けど自分達より強い相手には弱い(負ける)、
って、当たり前と言えば当たり前だけど、それだけじゃ全然意味ない。
相手のほうが力は確実に上という試合でメチャクチャ集中したプレーをし
て大方の予想を裏切って勝っちゃう(かと思えば、まだまだだったという
面が出て次ポロッと負けちゃう)みたいな“弱きを助け、強きを挫く”(
取りこぼしを奨励するわけではないけれど)的チームのほうが、よほど味
がある(←やってる人達は、「勝ちたい」と思っているだけであって、「
イイ味出そう」なんてコトは考えてないって)。
それにしても朝高イイなあ。サニックスワールドユース予選会(“裏花”)
では準決勝で天理に0対5の僅差だったそうですが、この府予選決勝もどち
らが勝ってもおかしくないどころか朝高が勝てた試合、朝高から見たら負
けたのは不運としか思えないような試合。うーん、去年のチームも相当の
レベルでしたが新チームも見事!今年は花園に出てほしい‥(と書いてし
まってから、花園予選で常翔が朝高とあたる可能性を思い浮かべ、い、い
かんっ、うっかりそんな事願っては!と一人で慌てました)。
コホン(咳払い)。何だか、春の選抜大会もまだなのに、先走っている
気もしますが、‥今年は絶対に常翔学園に花園出場を決めてほしい、です。
そして、花園で優勝してもらいたい。勝ち負け、よりも、いいラグビー、
という事を、いつも願ってきたけど、今年のチームには、あえて「優勝し
てね!」という言葉をかけたい。おととしと去年のチームの分も今年こそ、
という気持ちになるからというだけじゃない。
先程、もしかして常翔学園の事となると(自覚はないけど)好意的に見
る余り何でも良く見えちゃってたりしてと自戒(一応)して「まだまだ修
行が足りん」などと言いましたが、実は思いっきり期待して(爆)、心の
中でラヴレターを綴っていました。
NavyRedsの皆へ。
これでいいんだよ。<小難しい事を考えたりやったりせず><ひたすらガーッ
と前に行く>で。頭でっかちなラグビーより、シンプルでずっとかっこい
い。<止まらない(相手に止められないというより、止まっている状態が
ない)ラグビー>で、ぶっちぎっちゃえ。ただし、相手によって自分達を
変えるな。相手次第で変わってしまう“強さ”なんか本物の強さじゃない
から。変えさせられる事のない強さを身につけてほしい。相手が朝高だろ
うが仰星だろうが啓光だろうがヒガシだろうがスプリングボクスだろうが、
プレッシャーに負けるな、気持ちで負けるな。自分達からチャレンジし続
けて。あきらめないで。止まらないで。変わらないで。
‥というような事を思っていた(想っていた?)ところに、常翔学園さ
んから今度は2008年度版『協心』(イヤーブック/卒業記念冊子)が届き
ました。府予選のDVDをいただいて「サニックスワールドユース予選会も見
たいんですけど‥」と厚かましくおねだりした“裏花”のDVDも、一緒に
送っていただけました(再びm(_ _)m)。
そしてめくった『協心』の中の野上先生や福谷監督さん達指導者のかた
がたの言葉(※一部後述)に、私が漠然と(上に書いたように)感じてい
たのはまさにこういう事なんだなという気がしました。だから、裏花DVD
を見ながら「あ、今のプレー‥」「あ、今」と、はからずも考えた。
今、DFに来る相手を余裕をもってかわして次のプレーに入ったね。どんな
相手でも、同じように出来る?今、何人もが追いすがり食らいついてきて
も、自信を持って突き進んでいたよね。すごく強いチームが相手でも、同
じように出来る? ためらったり足が止まったりしない?今、絶妙のパス
が通ってた。どんなに相手のDFが厳しくても同じように出来る?今、ちょっ
と受けちゃってたね。相手がもっと強かったら、どうだった?今、ピンチ
の場面でタックルがばっちり決まったよね。相手が1や2やそこいらなら完
璧なタックルが決まらなくても大丈夫というわけではないし、相手が10以
上の時にそういう完璧なタックルが出来ないというのでは困る。相手がど
こであれ、あのタックルが出来る?
素人がマラソンを見て単純に疑問に思うのは、自己ベスト2時間◯分□秒
という一定以上の力がある人なら、そのペースを維持していつもと同じ様
に走ればいいんじゃないの、という事。それを大幅に上回るスピードで誰
かが揺さぶっているならともかく、スローペースの時に皆に合わせないで
あくまで自分のリズムで走っていけば少なくとも2時間◯分□秒以上を狙え
るのに、と不思議になる。だけど(もちろん、レースの駆け引きとかマー
クしている選手とか、そういうものもあるわけだけれど)いくら「自分の
ペースでいつもと同じように」走ろうとしても、実際に周囲に自分以外の
選手がいる、レースによって条件や展開がその都度違う、そんな中で「い
つもと同じように」走る事が、いかに難しいか、という事ですよね。
まして、ラグビーは、一人で自分のペースを刻んでいけばよいというも
のではない。自分以外の仲間のプレーヤーがいる。相手もいる。相手のレ
ベルも違う。「いつもと同じように」は決して簡単な事ではない。
簡単ではない事を成し遂げるために―
相手が1や2の時でも、これが花園予選の決勝だと思い定めてプレーする。
普段の練習から、200%を目指して取り組む。ミスはしても良いけれど、
100回の内1回ミスをしたとしたら、そのプレーをあと100回反復するよう
な地道な努力。それを目標意識を持って行う。
今年の常翔学園は、既にそしてこれからも日々こういう事を繰り返し、
「変わらない自分達」を作っていくのに違いない。
それにしても今回色々考えて書き進めながら、つくづく、自分が何が「
好き」で何が「好きじゃない」のかに気づかされましたが、単に強いチー
ム、負けないチーム、には興味がない‥っていうか、負けっぷりの悪いチー
ムは好きになれない。たとえ9割以上の勝率の、抜群にうまくて強いチー
ムでも、負ける時に普通に負けちゃう(←うまく表現できないんですが‥)
チームには心惹かれない。だから、勝手な言い分ですが(「優勝して!」
という言葉や「本物の強さ」という事と矛盾するのかもしれないけれど)
「負けてもいい」と思っているんです、自分達の姿で負けるんであればね。
だけど『協心』を読んで、今年は負けない、のではないかという気が強
まって来ました。
裏花のDVD、府予選のDVDで見る事ができた、シンプルだけど驚くほど力強い
ラグビー(但し未完←笑)にはやはり根拠があったのだと得心したからです。
※ 2008年度『協心』より
◎野上部長の言葉<抜粋>
‥ぶれることなく、自分を見失うことなく、慌てず、取り乱すことなく、
緊急事態を切り抜ける備えをしていなければならない。その一つの備えは
日頃から『基本の徹底』をこころがけることだろう。目的を見据えて、‥ ‥これだけやれば大丈夫などという保証などない。いつもベストを尽く
し限界に挑戦するのだ。『ベストゲーム』を目指すのだ。そして、自分を
鍛えることに喜びを感じてほしい。‥『クリーンゲーム』を心がけるのだ。
これが「コウダイらしさ、常翔らしさ」であり、何事にも揺るがない自信を
育むことなのだ。‥ ‥攻めて、攻めて、攻めまくろう。思い通りのラグ
ビーを思い切りやろう。
◎福谷監督の言葉<抜粋>
‥反省点を挙げると限りなく出てきます。地に足がついた練習を継続できな
かったこと。‥持っている力を最大限まで引き出すことができなかったこ
と‥ もっと、思い切った、力強いラグビーをさせてあげればよかった‥
失敗を恐れ、目先の勝利だけを追い求めすぎた結果が、スケールの小さ
なゲームしかできないチームを創ってしまったのだと思います。‥
‥ラグビーというスポーツほど人間性が出るスポーツはないでしょう。
‥日常の生活から何事も謙虚に学ぶ姿勢があって初めて本当に我々が目指す
ラグビーができるのだということ。戦略・戦術を謳う前に、基本を積み重
ねる、そのことが最も大切であるということ。‥心の育成・基本の徹底を
指導の中心において、心の通った本当の意味での「強いチーム」を創って
いきたいと思っています。
彼らに必要なのは、特別な秘策ではなかった。ただ同じ冷静さと正確さ、
同じ気迫、同じスピード、同じ力強さを、どんな時にでもどんな相手に対
しても持ちうる事、相手が10やそれ以上になった時にでも変わらずに自分
達の力を出し切れる事。揺るがない事。彼らが彼らでありきる事。
彼らを見守ってくれる人達と彼ら自身がそれに気がついてそれに向かっ
て努力を始めた。だからきっと出来ると思う。
今年の常翔学園が、最後の最後迄「‥ああ、やっぱり彼らだなあ」と思
えるラグビーをし通してくれる事を、確信しています。
2009/03/14 佳
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