No.9 2005.1.5-第84回花園準決勝の後、4チームについて
☆啓光学園☆
大阪予選で辛うじて勝った試合を見ても、今年の啓光はそれ程強いとは思わなかったので、正直花園ではせいぜい準々決勝までだろうとみていましたが、その準々決勝、伝統のDF、特にゴール前での集中力が素晴らしかった。上田くんの低いタックルにしびれました。又、今日の準決勝では、正智深谷に勝つにはこのパターンしかない、という正にその戦法を披露してくれました。ああいう流れを作れるのが“(実績に裏付けされた)自信”なんでしょうね。強さはは感じないけど、勝負が上手いと思います。ここまで来ちゃえば、あさっての決勝は、経験の分だけ啓光が有利という気がしますが、いずれにせよベストゲームを期待!
☆天理☆
チームとしてはピカイチだと思う。皆いい選手ですが、中でも八役くんの“突き刺さるタックル”はすごい。でも全員がひたむきに走っているからこそ、自慢の高校JAPANトリオが一層きいてくるんですよね。決勝では、チームの持ち味である、迷いのないきれいなラインの強いアタックを見せてもらいたい。啓光に勝つには、変に小細工をせず、冷静にかつ激しく、真っ向勝負を挑む事ですね。防御というよりとにかく思いきり良い攻撃を。優勝という栄冠にふさわしいチームだと思うので、カを出しきって戦ってほしいです。
☆大工大高☆
何を隠そう私の“ごひいきチーム”の1つです。良い時と駄目な時の波がすごくあるし、スロースターターだし、も〜何やってんのよ!と言いたくなっちゃうようなアホな事
をやったりもするし…(言いたい放題ですね、ご免なさい)つまり、ちっともスマートじゃなくて試合巧者でもない。だけど放っとけない。で、“たまに”、じーんとくるような試合をしてくれるのがたまらない(←毎回素晴らしい試合をする優良チームより、回数が少ない分だけ感動の大きさが上回っている、という単純な事なのかもしれないけれど)。つい「頑張れっ」と思っちゃう。今日はダメだったけど、うまくいかないところもあったけど、「次は頑張れ」って。そうやってずっと見守っていきたくなるような。…考えてみると国内で私の応援しているチームってどこも何故かそんな感じのチームです(笑)。ラグビーが好きなんだ〜っていう純粋な空気があるのが良さですかね。今年も、ことラグビーに関して(だけ?)はマジメそうな生徒さん達で、花園で「爆発」を期待していたのですが、ちょっと残念。…「又、頑張れ!!」。
☆正智深谷☆
少し長くなりますが去年の大会の話から始めます。例年花園は、シード校が顔を揃える2回戦=12月30日に行き、あっちの学校こっちの学校…と、3つのグラウンドをはしごするのが楽しみなのですが、去年(第83回)の花園は中学生大会の長野県選抜(港都くん)の応援に行ったため、年が明けてからの1月5日を見ました(中学大会は高校大会の合間をぬって4日と6日に行われるので、中日の5日に皆で高校の試合を観戦するわけです)。
昨年の1月5日、準決勝の顔合わせは、正智深谷vs大分舞鶴、啓光学園vs東海大仰星。啓光の3連覇を阻止できるとしたら(注:啓光学園が嫌いなわけではありません)正智深谷だろうと感じていたので、さ〜あ、正智深谷が舞鶴をノックアウトして(注:大分舞鶴に恨みがあるわけでもありません)決勝の舞台に上がってくるぞ〜と思い込んで観戦しました。
結果は、正智深谷がよもやの敗戦。「…信じられない」('99W杯準決勝AllBlacksのFrance戦「まさかの敗退」が頭をよぎりました)…目の前で決した試合の結果ににしばし呆然としていた時、視界にクリスチャンくんの泣き顔が入ってきました。
正智深谷の、パワーとスピードを兼ね備えたWTB14番。トンガからの留学生。2年生にして花園のスーパースター。“高校JAPAN”の肩書きが滑稽な(“高校”はなくてもいいんじゃない?と誰もが思う)くらい抜きん出て強い。彼とでは、対戦相手の強豪校選手達もまるで大人と子ども。実際、サイズからして違う(弟が割と長身なので、ラグビー選手を「大きいな〜」と感じる事は滅多にないのですが、クリスチャンくんは「デカい!」と思いました。数字ではもっと大きな人もいるわけですが、数字上より更に大きく見える)。試合で相手をなぎ倒しながら豪快に走っていく時はもちろんのこと、ウオームアップ場でチームメイト達と練習しているのを見ていても、冗談ではなくホントにとても高校生とは思えなかった。 そんな、大きな大きな大きな選手のはずなのに、舞鶴の選手が拳をつきあげて喜び観衆が興奮の声援をおくる中、うなだれて、しっかり歩けないくらい泣きじゃくっているクリスチャンくんは、ごく普通の高校生、いえ、幼い子供のようでした。それまでの印象と全く違った姿に胸を衝かれ、彼がグラウンドを去っていくまでずっと目が離せませんでした。出ロへ向かう後ろ姿。広いはずの背中も何だかとても小さく痛々しく見えて、思わずその背中に向かってつぶやきました。「来年またここ(花園)に“忘れ物”をとりに戻っておいでよ。絶対!」
……それから1年間、私はずっと正智深谷応援し続けてきました……と、言う事ができれば、美談調(?)でカッコ良かったのですが、実のところこの事はケロッと忘れていたのです。
でも、思い出した。今年の花園3回戦を見た限りでは「正智深谷ってこんなもんだっけ。これじゃ次、佐賀工に負けちゃうな」。ところがおとといの準々決勝(l月3日)、今年特に戦力充実と評判の佐賀工との一戦で、見違えるような集中力。「今年こそ」という決意が感じられました。それで思い出したのです。「…ああ、そうだったよね。忘れ物を取りに来たんだものね。」
そして今日(1月5日)準決勝第ー試合、正智深谷vs啓光、昨年の<幻の決勝力ード>…。3年生になったクリスチャンくん達が最後に果たして忘れ物を手にする事ができるのかどうかがかかっていた試合でしたが、正智深谷もちょっと工大高に似たところがあって、良く言えば大らかな、悪く言えば隙のあるチーム。そういう“憎めない欠点”を、実にうまく啓光に衝かれたゲームでした。前半で0-31。それでも(他のチームならこの時点で「勝負あった」でしょうが)正智深谷にはここからでも逆転できるカがあった。実際、後半着々と追い上げて勝機のある点差にまで詰め寄ってきました。でも、結果的にはクリスチャンくんが後半序盤に足をいためてしまい走れない状態だったのがひびいたと思います。あと1トライか2トライというところで彼の「決定力」が使えなかっだ。足をひきずるクリスチャンくんを見ていて切なくなりました。勝利の女神が味方してくれない時というのはそうものかもしれないけれど、残酷だよね、と。同じ負けるにしても多分全力で走りたかっただろう。全力で走って、それをとめられて負けたほうが、走れない辛さよりもまだあきらめがつくのに…。
でも、試合後、1年前の同じ日に泣きじゃくりながらチームメイトに支えられヨロヨロとようやく歩いていた男の子はもういませんでした。がっくり肩は落としていたけれど、今日のクリスチャン<んはチームメイトを抱き締め慰めながら歩いていた…去年より一回り成長した背中でした。そして、今日彼に寄り掛かって泣いていた後輩達が、1年後又夢を追う…。
高校ラガー達の夢、<花園>。最後に優勝する事ができるのは確かに至福だけれど、勝てなかったという事さえ“宝物”になりうる…改めてそう思います。
クリスチャンくん、そして、彼だけでなく、勝てなかったすべての学校の選手達の「これから」に、手に入れられなかった夢、置き忘れたままになってしまった想い…そうしたものが“宝物”になって、きっと活きてきますように。
05/01/05 佳
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