かよこのノート

 No.54 Tri Nations その1

Tri Nations第2戦、ABsがSpringboksに負けた。
試合直後はサラッと「Home(しかもCarisbrook)で敗戦しちゃったから
今度はawayで頑張らなきゃあかんぞ〜」などと思った程度だったのです
が、(放映が終わったのが夜中だったので)さあ寝よう、とすぐ布団に
入ったというのに頭が冴えてしまって(珍しい‥)なかなか眠れません
でした。後から段々「あれは凄かったなあ」と色々浮かんで来て、興奮
が一向に冷めない。それ位に刺激的な試合でした。
 しかし、それが霞んでしまうくらい衝撃だったのが第3戦Wallabies vs
Springboks。
今年のTri Nationsは、各カード3つずつ、各チーム共Homeとawayでそれ
ぞれ3試合を行なう、という全9試合(試合数大幅増)なのですが、そんな
長丁場の序盤戦とはとても思えない。まるで一度限りの決闘、のようでし
た。
 これを見て(「Wallabies凄い」)しかもWallabiesのHome gameとな
れば、当然の予測としてWallabies有利=ABs苦戦必須、となるはずの第
4戦。なのに、その割に試合前のABsからイマイチ闘志や覇気が伝わって来
なくて、これは下手したら“惨敗”かも‥と嫌な予感。そしたら案の定
キックオフ早々にWallabiesが鮮やかなトライ。「49-0」(“歴史的大
勝”と言われた、06年度Wallabies vs Springboksのスコア)が頭をよ
ぎりました。尤も、その後ABsもさすがにちゃんとくっついて行って、
ハーフタイムの時点ではどちらが勝ってもおかしくないゲームだった。
けれど、やはり、終わってみればWallabiesの“(歴史的とは言わない
迄も)大勝”。
 以前からテルストラスタジアムでのABsの勝率は極端に悪かったし、
「土がつく」事自体も意外ではない。ただ、ABsの“連敗”は珍しく、
かつこれだけの“大敗”は滅多にない。
 でも果たしてそれだけの差がこの2つのチームにあるのか。‥
「否」。なら、勝者と敗者の違いは一体何だったのか。
あまりに感情的な答えかもしれないけれど、Wallabiesは、失うものが何
もない挑戦者として(しかも自信に満ちた挑戦者として)、スタートか
らスピードと気合い全開で臨んで来た。ABsももちろん単に受けに回った
わけではないのだけれど、「挑戦者」ではありえなかった、即ち、挑戦者
に不可欠の、劣勢を跳ね返す力がなかった。
 当たり前だけど「力がない」と言っても、技術がないわけでもパワー
不足なわけでもなくて、実際、スクラムは勝ってたし、スタミナでもABs
の方が余裕がありそうに見えました。ブレークダウンでも全体的にはABs
が優勢だったし。でも、ここぞという局面ではWallabiesの方がより峻
烈。絶対にここだけは破られるものか、という危機管理能力、或は逆に、
数少ないチャンスへの集中力‥。ホントはABs自身がそういう面の非常に
優れたチームだと思うのですが、Wallabiesは遥か上を行ってました。
‥で、繰り返しになりますが、Wallabiesがそれだけ先のレベルなのか、
それだけの差があったのか、と言うと、やっぱり「否」、差はない、と
思う。なのにどうしてあれだけ勢いが違うのか、どうしてあれだけ大勝/
大敗にってしまうのか‥。
その答えを象徴していたのがRichie McCaw、という気がします。
 この試合、Richie McCawは未だケガが癒えずという事でスタンドから
の観戦でしたが、終盤、試合が決したと思われた場面で、思わず顔を覆い
絶望的な表情を浮かべている姿がTV画面に映りました。つくづく感じるに、
彼のこのリアクションこそがABsの「力のなさ」の証し。
 “試合が決した場面”と書きました。確かにこの時点で事実上ABsの勝
利の可能性はなくなったのですが、‥‥だけどさあ、まだ試合が終わった
わけでもなくて「負け」てもいないのに、ABsのキャプテンがあんな顔す
るか? 第一、ここで負けるかもしれないからって、それがどーした?っ
て、私なんかは思っちゃうわけです。一つには、「この試合に負けようが、
それがなんなの? そんな絶望しちゃうような事? まるでW杯で負けた
みたいな顔。W杯じゃないんだから、“負け”だって、それがレッスンじゃ
ないの? 大体“いつも勝つ”っていうほうが不思議でしょーが」。同時
にもう一方では、「負ける事がそれほど辛い? いつも勝ちたい? なら、
いつだってW杯のつもりで、後がないつもりで必死で戦わなきゃ。あ〜、
負けてしまう、じゃなくて、負けるものか、勝つ。その気概が薄いんだよ、
ABsは」。
 私の心の中も、「負けがどーした」と「負けたくない必死の気持ちをもっ
と強く持て!」とが混ざり合っていて、ちょっと複雑なのですが、ともか
く、Richie McCaw(キャプテンたるもの)は、あそこであんな顔しちゃあ
かん、と思う。あんな悲愴な顔じゃなくて、悠然と構えてるか、そうでな
けりゃ、キッとWallabiesを睨み据えてるか‥。そういう風じゃない事か
らして、もう、劣勢を覆して這い上がる「力」が弱い、という事に他なら
ないと感じるのです。
 ABsは確かに特別な存在だしそうあってほしいけれど、だからって、超
人でも魔法使いでもないのだから『絶対』であるはずもなく、つまり、
実はABsだって失うものなんて何もないはずなのに、ファンも(私もそう
だけど)プレーヤー達やコーチ陣もメディアも、無意識というか深層意識
で何か錯覚しちゃってる。だから一旦勝利のパターンやリズムが壊れたら、
この世の終わりとでもいう位に動揺し、修復不能に陥る。もちろん実際
ピッチに立ってる選手達は、何もできずに右往左往しているわけじゃな
く、最善のプレーをしている、少なくともしようとしているのだけれど、
でも、頭か心のどこかに、弱気と焦り(あ〜、負けてしまう)(そんな
バカな‥)がある。
 なんか、もー、いい加減にこの悪癖から脱皮してほしいなあ。苦戦とか敗
色濃厚とか、それ位でオタオタするなっ、そもそもそんな事でうろたえな
きゃあかんのだったら(そんな羽目になる前に)もっと相手を叩きのめ
せっ(注:私は、過激さとは無縁の至って穏やかな人間です)。なーんて。
 しかし、ABsの連敗/大敗で、恐らくNZ国民は「この世の終わり」と激
しく動転している(笑)のでしょうが、私としては、もしかしてこの“
苦境”が、以前からしつこく言ってる、ABsが“死にもの狂い”の“なり
ふり構わない”闘いをする、事の為に役に立ったなら、すごい見モノにな
るはず、と、今後のTri Nations に期待が膨らんでいます。
翻って言えば、これだけのレッスン(敗戦)を経てもまだ、当たり前の
事を当たり前にちゃんとやれば実力通りに結果がついてくるんだ、的な
普通の闘いを続けるようなら、底なし沼ですよね。
 底なし沼にずるずる落ちていくだけのひ弱なチームなのか、それとも
泥沼からもがきながら這い上がって手負いの獣のごとく決死の反撃を挑
む事ができるのか、オールブラックスの正念場、かもしれません。

                        
                           2008/07/30 佳
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