No.61 「花園」への道

 「花園」を目指しての戦いが各地で始まりつつあります。
福岡、愛知、埼玉、茨城、広島、大阪‥、予選決勝の熱闘が予測できる県は
幾つもありますが、
―奈良―。まだ県予選の幕が切って落とされてもいないけれど、今年は「県
1校」の現実がことさら重い。天理高校。御所工・実高校。どちらも出して
あげたい、出てほしいチームです。9月半ば、御所の試合を見る機会があり
ました。試合後「御所、強いわ」「めっちゃ強い」‥驚きというよりあきれ
返った口調で強い強いという声があちらこちらからしきりに発されていた。
それ程の充実ぶり。
 強い‥。確かにその通りなのですが、しかし、私が一番感じたのは、「気」
の鋭さ。(実力拮抗のチーム間では)試合前に、より“熱さ”を感じさせた
ほうが勝つ。私の中ではこれがいわば常識でした。そして、熱さとか気合い
っていうのは、「行くぞー」「おーっ」みたいにガーッと発散させてピッチ
に出ていくものだと思い込んでいました。ところが‥。
 試合前、御所の選手達が監督を取り囲み地面に片膝をついている。静寂、
と表現してしまいそうになる時空。何をするのか、何をしたいのか、何故闘
うのか。意思統一。一挙に上昇し一瞬で散っていくだけの熱さなどない。鋭
利な冷たさに包まれ、発散されず(せず)にギューッと押しとどめられて黒
衣の下で煮えたぎっているであろう熱。‥そうか、春の全国大会決勝の再戦
だ、啓光対御所‥リベンジのマグマか。いや、それにしても、というくらい、
ゾクッとする殺気。
 この、試合前の情景を目にした時点で「これで御所が勝たへんかったら嘘
やろ」と感じました。だから、試合後の「啓光、全く歯が立たんかったもん
なあ」という周囲の観客達の溜息の中で、個人的には、「啓光も恐るべし。
もっと一方的になるかと思ったけど啓光にかなりしっかりした底力があるか
らこれだけのゲームになったんやろなあ」とむしろ啓光にちょっと感心して
いた、のですが、やはり、思い返すと、御所の印象がかなり強烈。
 天理。黒づくめの御所に対しこちらはご存知の純白。真っ白いジャージは
如何にも高校生らしく、そして、天理というチーム自体も、大人の「高校ラ
ガー、かくあらまほし」の願望(夢想)そのものの清冽さを、不思議に毎年
湛えている。だから「天理、イイよね」っていう人、結構多いですよね。私
も、小粒なのによく鍛えられている、このチームのカラーに好感を持つ一人
です。‥などとあまり天理を誉めると、御所がまるで“黒い悪魔”の役回り
になってしまい気の毒か。 
 しかし、つくづく‥天理か御所‥どちらかしか出られないって、うーん‥
と唸ってしまいます。あの御所の試合を見た後、私は思いましたね「大阪3
枠の優勝校で最終決戦をやって1校落としてでもいいから天理と御所の両方
を出してあげたい」と。(うっ。HPが見つかってしまい、野上先生の目にと
まる事もあるかもしれないから滅多な事は書けないぞと心していたのに、書
いてしまった、野上先生ご免なさい。) “黒”と“白”の事だけ書いてお
こうと思っていたのだけれど、こうなったら触れなくてはいけないでしょう、
“NavyReds”、そう、常翔学園は一体どうなのか?実は、白状すれば、啓光
対御所の前に行なわれた常翔対伏工を見に行った、そしたらその一戦より御
所にガツンと衝撃を受けた、というわけ。いっそ全部告白してしまおう。常
翔学園、今年のチーム、少なくともこの9月半ばの試合時点では、私にはま
だ何となく「見えなかった」。去年のチームが鮮明すぎたせいもあると思う
けど‥。去年の、最初は、あまりに弱い、と言われていながら、最後には、
どこまでも突き抜けて行ってくれそうな気がするほど強くなったあのチーム。
〔‥今年のチームは「当然」もっと強いでしょ? 実際、春の時点でかなり
手応えのある戦績。高校代表も4名も送り出してる。そして、工大高いや常
翔学園は、いつだって春より夏、夏より秋、と段々強くなってくれるはず。
‥〕なのに、秋、私にアッパーカットを食らわせたのは、常翔じゃなくて御
所だった。
 正直、思う事はいろいろあります、こうじゃないの、ああじゃないの、っ
て。でも、考えたら(前回A君の話の時とだぶる、当たり前の事なのだけれ
ど)「私が心配しなくったって、ちゃんと見て支えてくれてる人がいるんだ
から」「ほっとけばいい」んだ。‥そう「ま、エエわ」って。もしかして、
ひょっとして、たとえうまくいかなかったとしても、土台がしっかりしてい
れば又やり直す事ができるのだし、土台がしっかりしている事に関してはは
っきり信頼しているから。
 何だか、前々回の一文(No.59)って、まるでこういう思考に至る事を予
知してたように感じられて、不思議。「ま、エエわ」然り、そして「自分以
外のものにならなくてもいい」も然り。 
 御所がまとっていた鋭い「気」。それは凶器。常翔学園は、どう転んでも
多分そういう冷たい殺気を放てるタイプのチームじゃない。即ち一つの武器
の欠如。けど、構わない、と思う。他の誰かや何かのようになんてならなく
ていい。自分達であればいいんだもの。
 試合の日までは、「自分」を変える、つまり「昨日までの自分」より強く
なる、そのためにひたすら練習する。でも、いざピッチにたてば、結局「自
分」「今の自分」でしかないんだから。付け焼き刃は通用しない。よそいき
のラグビーは邪魔。行儀良いラグビーもいらない。格好いいプレー、上手い
プレーさえ必要ない。高校ジャパンも強豪校も関係なければ、対戦相手との
実績や相性も関係ない。練習してきた「形」だって忘れていい(すみません、
責任とれません。忘れちゃいかん事もある、と思います‥笑)。あるのは「
形」なんかじゃなくて自分、自分達だけ。言い旧された言葉だけど、相手が
誰だとかに関係なく、周りの一切に惑わされず、「今の自分」を全て出す、
全てを燃やし尽くすつもりで立ち向かう。それが、何よりの武器に、力にな
るはず。
 ‥あーあ、「ほっとけばいい」と思ったのに、ダメだ、又ごちゃごちゃ書
いちゃった。花園予選決勝まで、今度こそ黙って‥。 


                        
                           2008/10/01 佳
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