No.70 関西大学A/B入替戦
大学の各地域リーグが終了して全国選手権が開幕する迄の間に、行なわれ
る試合があります。上部リーグと下部リーグの入替戦。
一年前、入替戦で摂南大に敗れてBリーグ降格が決まった龍谷大学。その
瞬間からこの試合、即ち、一年後の、Aリーグ復帰をかけた入替戦が、彼ら
の最大の目標となりました。
今季の龍大は“格下”相手とはいえ連戦連勝。ここ数年Aリーグではなかな
か勝ち星をあげられずにいたのが、下部に来た事で、ある意味勢いがついた。
彼らに欠けているのは、勝利の味を知る事、勝ち癖をつける事では、と感じ
ていたので、連勝街道をひた走る龍大に、これなら間違いなくAリーグに返り
咲いてくれそうだし復帰後もBリーグ転落前より良い成績があげられそう、
と期待していました。最終戦は大産大との全勝対決。これも制して、無敗で
Bリーグ優勝。あとは対戦相手、Aリーグの最下位チームがどこになるか、
を待つだけだった。
ところが、運命の皮肉。関西Aリーグの大混戦。特に最下位争いはもつれ
にもつれ、11月30日の最終戦、京産大対同志社大の結果次第、という事になっ
た。
京産は、負ければ、なんと最下位の8位(7位は近大)。勝てば、5位へと順
位をあげ、入替戦を免れるだけでなく大学選手権出場の道が大きくひらく(
この場合最下位は近大)。尚、同志社は、勝っても負けても2位が既に確定し
ている。つまり、京産のほうに断然高いモチベーションがあり、しかも、例
によって大味な印象の同志社に対し、京産はごく僅差での惜敗がひびいて苦
しい順位になっているものの終盤にきて立命館を倒す粘りも見せている。京
産大が最終戦でも引き締まった試合をして同大を倒す、というのが私の予測
であり願望だった。
願望‥。そう、京産には最下位になってほしくなかった。
一つには、京産(や大体大)自体、頑張ってほしいチームだから。早慶明や
同志社と違い、部員の殆どは無名の高校生達、それが京産らしい選手、チーム
に育っていくのを、好ましく見ている。
もう一つの理由は、どう考えても京産の実力がAリーグの一番下であるはずが
ないという確信。歯車が僅かに狂っていただけ。正しく噛み合ってさえいれ
ば3位か4位にいてもおかしくない地力。そのチームが「最下位」になってし
まったら、龍大がBリーグで1位になった意味がない、大産大に負けて2位に
なっておいたほうが、有利な相手と闘えた、という事になってしまう。
だから、「京産、絶対勝てよ!」と思いながら見たのに‥。
どうして、こうなってしまうのか。いつも“宝の持ち腐れ”状態でピリッ
としない同志社なのに、この最終戦で「ベストゲーム」をし、京産大はなす
術無く完敗、最下位が決まった。
―京産大をBリーグに落としたくない。龍大にAリーグへ上がってほしい。
―
願いは、どちらか一方しか叶わない。
12月13日、京都宝ケ池球技場。
11月30日のAリーグ最終戦後しばらくは「‥こんな事って‥」と絶句してい
た私だけれど、ここに至っては(京産はホントはちゃんと力があるんだもん、
来年又Aリーグに上がってきてもらえばいいんだから、と)自分なりに割り
切って「今日の京産大は、龍大が“蹴落とすべき敵”」と思い定め、迷い無
く龍大の応援席に座った。一年間この試合に照準を絞ってきた龍大に対し、
京産大はこんな場に来る事など当初は想像だにしていなかったはずで、“準
備”の面では龍大にアドバンテージ。“応援”も、京産側はどうしても「頼
むから負けんといてー」といった空気なのに対し、龍大側は当然「勝ちに行
く」気合い満々。試合前から、何だか、行ける、ような雰囲気。そう、負け
るもんか。負けられない。
試合開始のホイッスル。
キックオフのボールに果敢に飛び込んでキャッチする龍大選手の姿に、後ろ
の席のお母さんから、「ええよー!」という声があがる。この日のスタンド
にはご父母の方々(だろうけれど主力はお母さんがた)が本当に大勢来られ
ていて、揃いのユニフォーム、手作りの横断幕で、応援席を一層盛り上げて
おられたのですが、ワーッとお祭りのようなのとは違い、お母さん達ならで
はの愛情、眼差しの優しさが印象的でした。後ろの席のお母さんも、フィー
ルド内の選手には聞こえるはずもないエールを、試合の間中ずっとつぶやい
ておられました。(ええよー、頑張ってる、今日はええやん、頑張ってる、
頑張ってる、一年間ホンマによう頑張った‥)。頑張れ、と祈るだけなら、
声に出さなくても心の中でつぶやけるけれど、お母さんは、息子さんとその
チームメイトとご自分とに向かって、声に出して「この一年」を確かめてお
られたのだろう。お母さんの言葉を聞き、実際にその姿を見てはいない私ま
で、彼らの一年間に思いを馳せる。
横断幕に書かれた“集大成”の文字。
そう、今日は「この一年」の集大成。全てを注ぎ込んで結果をつかもう。
いつものこの時季は、五山送り火『妙』の文字跡もくっきりの西山から吹き
下ろす冷たい強風に肩をすぼめる宝ケ池が、今日は雲一つない快晴。眩しい
程の青空は、同じ空色のジャージを着た龍大メンバー達の頑張りを認めて、
そして報いてくれる、その前触れのように思われた。
しかし、キックオフ直後、敵陣深く入って手応えを得たものの、ふとした
スキをつかれ先制トライを奪われてしまう。その後もなかなか自陣を脱出で
きず、2つめのトライも許す。0-14。
もう1本トライを取られてしまったら天秤が大きく傾いてしまうという状
況。けれど、縮こまったり自信なさげになる事なくひるまず攻めた龍大が、
反撃のトライ。7-14。ここからは一進一退というか取って取られての展開。
記録をとりながら観戦する習慣がないので確かではないけれど、多分、7-17、
14-17、14-22、21-22、21-29、21-36、28-36、ノーサイド‥。
「よくやった」「ええ試合やった」ラグビーでは、敗者にも温かい拍手や
言葉がおくられる。でも、この日の龍大ほど本当に「よくやった」の言葉が
文字通り/額面通りふさわしいチームは滅多に無い。そして、「よくやった」
の言葉がこれ程空しく聞こえる試合はない。
東京予選決勝で敗れた明大中野高校の監督大和さんの言葉、‥ウチの子ど
もたちは大きなものを手にできた。あれだけタックルしても、あれだけ頑
張っても、思いが通じないことがある。それを身をもって経験できたんです
から。‥
この言葉、目にしてすぐに掲示板で紹介してしまったくらい共感していたの
に、龍大の選手達の呆然とした姿を目の前にして、今日はとてもそんな風に
思えない、納得できない。「あれだけタックルしても、あれだけ頑張っても、
思いが通じないことがある」やりきれない。
第二試合。Bリーグ2位の大産大対Aリーグ7位の近大の試合。
予測した結果ではありましたが、大産大が近大を下してAリーグ昇格を決め
ました。‥龍大が大産大に勝たずに2位になってさえいれば。‥ほんまに
もーっ、なんでよりによって京産が最下位になったりするんやー。
‥同志社が京産に勝ったりするからあかんのや。同大のあほー。怒り(八つ
当たり)の矛先が同志社に向かったりするけれど、ホントのところそんなに
元気良くも怒れない。はー、と力なく溜息ばかりついてしまう。
やりきれない。
試合前、お母さん達手作りの横断幕に「メッセージを書いて下さい」と言
われ、“想いを一つに、勝利をつかめ”と書きました。入替戦では、内容云
々よりも、とにかくまず勝つ事と思ったので。何よりも大事なはずだった勝
利。それをつかむ事ができなくて、悲しくて悲しくてとてもやりきれない(
フォーク・クルセイダーズです←古くてすみません)。
それでも、こういう結果になってしまったからではなくて、実際にこの試
合を見たからこそ、あえて言いたい。勝つ事だけが大事‥ではなかったのだ、
と。精一杯やった事、特に4年生の頑張りは、確かに下級生に伝わったと思う。
だから龍大の皆には、この試合の記憶を決して捨ててほしくない。
思い出して、試合前の円陣での言葉で表せない胸の高ぶり。一年間の“集大
成”に挑む気持ち。
忘れないで、普段はあくまで淡々と役をつとめるウォーター・ボーイの部員
達までが、一つのプレー一つのトライに、拍手をエールを送っていた事。
覚えていて下さい、途中交替で退場した4年生達が、引っ込んでしまわずに、
ジャージ姿でピッチサイドに立ち続け、ずっとフィールドの中を見つめてい
た事。
心に留めておいて下さい、相手側ラインアウトを何本もスティールした集中
力と気迫。気持ちを切らす事なく追いかけた走り。つなぎ続けたパス。
そして一年後、今度こそ。
想いを一つに、勝利をつかめ。
2008/12/16 佳
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