かよこのノート

 No.100 Final thoughts before final decision

 6月末、IRBの『Rugby Ready』(“ラグビーを始める前に”という感じの“
準備編”ガイド)の日本語版(“ラグビーのための準備”と訳してありまし
た)を見つけて、コーチに「こんなのありましたー」とお知らせしていたの
ですが、最近今度は『A Beginner’s Guide to Rugby Union』(“初めて
のラグビー” とでも訳すのかな、“初級編”ですね)という初心者ガイドが
出ていました。
 冒頭にRugby’s history & ethos(ラグビーの歴史と精神)という一文が
あり、そのあと簡単なプレーとルールの解説やポジションについての記述‥
と続いていて、まさに、私が当初(No.86参照)思い描いていた、“新入生の
ためのラグビー事始め”。
「新入生へのルール解説は、各学年のコーチの皆さん、宜しく」なーんて
言ってましたが、こちらのガイドを覗いていただければと思います。
http://www.irb.com/mm/document/training/0/beginners20guide20en_7391.pdf
 他にも、スクラムやラインアウトについての説明や、レフリー達の役割、
反則について‥などなど、ラグビーの基礎知識が書かれていますのでぜひ(
注:英語です!笑)。

 ポジションについての記述部分、No.86で自分が書いたのとどう共通してい
てどう違っているか、興味深かったので見てみました。以下、例によってア
バウト(「要するにこういう事よね」と解釈しているだけ)な日本語訳です。

Propsプロップ(1、3) 
するべき事:最も重要な役割は、スクラムの強さを増し、スクラムをしっかり
と安定させる事であり、ラインアウトでジャンパーをサポートする事。又、
ラックやモールの中枢でもある。
必要な資質:スクラムでの安定性を生むための上半身の強さ。忍耐力。
プレーの継続に必要なハンドリングの良さ。動ける事。

Hookerフッカー(2)
するべき事:2つのユニークな役割、即ち、スクラムでのボールの獲得と(
通常)ラインアウトでのスローイング、を担っている。
必要な資質:スクラム最前列に耐えうる肉体的な強靭さと、ピッチ上を素早く
走れるスピード、及びスローイング技術。

Locksロック(4、5)
するべき事:ラインアウトやキックオフでボールを獲得する事。スクラム及び
ラック、モールに於いて、前への推進力となり、攻撃の基盤を創り出す。
必要な資質:主要な特性としては高さであり、チームの中で、ボールキャッチ
の技術と機動力に富んだ、体力的体格的に大きなメンバーがつとめる。

Flankersフランカー(6、7)
するべき事:ブレークダウンへの到達の早さやタックルの強さを武器に、主
にターンオーバーボールの獲得を目指す。
必要な資質:タックルへの飽くなき希求と、ボールを獲得するためには何を
も恐れない姿勢。スピードと強さ、忍耐力及びハンドリングスキルのバラン
ス。

Number 8ナンバーエイト(8)
するべき事:スクラム内においてはボールを必ず確保し、オープンプレ
イではボールキャリアー、攻撃の局面ではフォワードとバックスのリン
クプレーヤーとなり、又アグレッシブにディフェンスをする事。
必要な資質:ハンドリングスキル並びにスペースを見つけ突いていく意
識が不可欠。攻撃に於けるテリトリーとフィールドポジションを獲得
し、バックスに素早く球を供給するための、短かい距離でのパワーと緩
急自在のスピードも重要。

Scrum halfスクラムハーフ(9)
するべき事:スクラムやラインアウトにおいてフォワードとバックスの
つなぎ役となる。事実上プレー選択の決定者であり、ボールを、素早く
バックスへ展開するのかそれともフォワードの近場でキープするのか
を、判断する。
必要な資質:多面的なポジションであり、パワー、瞬発的なスピード、
全般的なハンドリング及びキックのスキルが求められる。良いハーフ
は、優れたゲーム理解力と自信を備えたプレーヤーである。

Fly halfフライハーフ/スタンドオフ(10)
するべき事:チームの指揮者役として、ハーフからボールを受け取り、
キックをするのかパスをするのか、それとも自分で仕掛けるのか、とい
う判断を、プレー中の瞬時に選択しなくてはならない。
必要な資質:キックのうまさ(両足で蹴れるのが理想)、ハンドリング
に巧みな事、スピード(緩急)、視野の広さ、創造性、コミュニケー
ション能力、戦術的戦略的意識、プレッシャーに強い事。

Centresセンター(12、13)
するべき事:センターはディフェンス/アタック両面におけるキープ
レーヤーである。ディフェンスに於いては相手ボールキャリアーへの
タックル。アタックに於いてはスピードとパワー、ひらめきを活かし
た、相手防御の打破。
必要な資質:現代のセンターは、スマートかつ強靭そして素早く迅速で
ある事が求められるが、このポジションに要求されるのは、味方ボール
を死守するため或は相手ボールを奪うためのコンタクトプレーの激し
さ、勇気である。

Wingsウィング(11、14)
するべき事:相手に走り勝ってトライをあげるための加速的なスピー
ド、それを発揮するためのプレー。ディフェンス面での堅固さも大事。
必要な資質:自在なペース感覚(緩急併せ持つスピード)。オープンス
ペースでボールをもらった時に、ぐいっと加速してトライラインに向
かって走り切れる事。強さとハンドリングの良さも。
(注:他のポジションの要旨はあまり間違ってはいないと思うけど、
ウィングの項は私の英語力ではスッと意味がつかめませんでした。日本
語版が出たら確認しておきますが、もしかしたら意味が違っているか
も。すみません、予めおことわりしておきます。)

Full backフルバック(15)
するべき事:一般に防御の最後尾とされており、ハイボールのキャッチ
に自信がなくてはならない。クリアキックに優れ、又、トライセービン
グタックルを決められるだけのタフさがなくてはいけない。
必要な資質:ハンドリング。攻撃に於けるスピードと、防御に於ける力
強さ。ライン参加によりオーバーラップを創り出して、ウィングのトラ
イを引き出す能力。戦術的な技能とひらめき。

 ‥如何でしょうか。
うん、まあ、そうだよな(←IRBのガイドなんだから、「まあそう」じゃ
なくて、これがスタンダード)と納得しつつ「‥さすがに“お嫁に行くな
らフロントロー”なんて事はどこにも書いてない」(当たり前だろ)。や
はり私が書いたのは、するべき事/必要な資質、というより、こうあって
ほしい、という願望や思い込みだった、という事が明らかになりました(
笑)。
が、ああして書く事で自分の(その人の)ラグビー感みたいなものが出る
なあ、と改めて思う。
選手やコーチ、サポーター達にパッと紙を渡して、自分の思う#1から#15
についての役割やイメージを書いてみて、と言ったら、きっとそれぞれの
ラグビー像が出て来て面白いだろう。

 さて、IRBのスペシャルミーティングで2015年と2019年のW杯開催国の
最終決定が下される日が近づいています (7月28日)。‥日本になっちゃ
うのかなあ‥。

 先日のW杯運営委員会からの推薦後の各国(一般のラグビーファンを含
め)の声は、日本開催を「指示する」という人が殆ど。
‥それはね、わかるんです。例えば柔道の世界選手権を◯◯で開こう、
それが柔道をより一層世界に広める事になる、と言われたら、◯◯開催
を喜ばしいと思いこそすれ反対する理由など浮かばないですもん。サッ
カーのW杯の時なんか「そうそう。ヨーロッパや南米ばかりじゃなくアジ
アでもやったらいいんだよ。」などと、他人事(笑)ながら思ったりした
ものでしたし。
 でも、ラグビーはひとごとではない、んです、私にとっては。だから、
無責任に「日本でW杯を開催しさえすれば、日本でのラグビー人気(ラグ
ビー認知度、ラグビー文化)が高まる! アジアのラグビーに貢献でき
る! ラグビーの世界的発展のためになる!」とはとても言えない。
 アジアのラグビーを盛り上げるっていうなら、中国(日本なんかより
遥かに人口が多い)やタイや他の国々(←元Scotland監督のHaddenさん
が現在モンゴルで草の根ラグビーのコーチをしているらしい!!!)で普及
活動をした方がいい。そうした各国のレベルアップをはかって、現在ジャ
パンが「一人勝ち」しているようなアジアの状況を変えていく。たとえW
杯へのアジア予選で今みたいに簡単に勝てなくなっても、アジア全体をそ
ういう切磋琢磨できる環境にしてゆくほうが長い目で見たらジャパンのた
めにもなると思う。
世界的発展というのは、結局そういう事でしょう(W杯を単発イベントの
ように世界各地に巡業させる事が、世界的発展になるのか、何度考えても
頷けません。人気イベント開催という手でいくんであれば、W杯優勝チーム
の世界ツアーでもやればどうなんだ)。アジアでアメリカでアフリカで‥
世界各地で草の根レベルからコツコツと種を撒かなきゃ。
SA(南ア)は、前にも書いたけれど、アフリカでのラグビーの普及事業
に力を入れているし、国内でもソウェト地区の子供達への指導交流等、
しっかり活動をしているようです。日本も、“アジアのラグビー”云々
を言うんだったら、まずそういう事をするべきなのに、「日本でのW杯 
イコール アジアの発展」‥これも何度考えても頷けない。

 せめて日本招致委員会がもっと別な顔ぶれだったら、もしかしたら
「日本でW杯を開催しさえ」したら、の「その後のサクセスストーリー」、
に少しは期待できたかもしれないけど、あの面々じゃあ信じられるわけが
ない。麻生太郎とか‥現協会会長といい、国民的不人気の政治家を日本ラ
グビーの「顔」に平気で据えてしまう感覚が理解できない。あの顔ぶれの
中で多少なりとも純粋にラグビーにかかわりがあると思えるのはほんの一
握りで、あとは如何にも政治と経済界のコネだけの、ラグビーに何の関心
もない人達。
どうせ「ラグビー文化未開」の「発展途上国」としてW杯を招致するのだっ
たら、真摯に、名も無い人達による招致活動であるべきですよね。全国各
地のスクールのコーチや生徒、中学や高校のラグビー部の部員や指導者、
大学や社会人の関係者、ラグビーファン、そういう人達の中から自然発生
的に起こる招致運動だったら、と思う。今の招致活動は全然違っているか
ら、とりあえず日本にW杯が来るんなら歓迎、という人でも、心有る人なら
ば「何はさておいてもまず開催、その一点ですべて良しとする事が果たし
て正しいのか」という疑問を抱きつつ、というのが日本の実態。
ああー、いいのかなー、日本に決まっちゃっても。
おろおろしたってしょうがないけど、気持ち悪さがどうにも拭えなくて。

 私、これまで、「IRBの委員の人達は、日本人の実態を知ってるのか?」
(知ってて日本で開催する冒険をしようとしているのか?)と不思議でし
た。通りを歩いている日本人をつかまえて、ラグビーについて質問しても、
ロクに答えられる人がいるとは思えない(それどころか、現会長に、例え
ばジャパンのメンバーの名前をたずねてもきっと答えられないし、PNCの
順位をたずねたとしたら「‥それ何?」だろう)。
 でも、思った。別に、ジャパンのメンバーの「名前」や世界のラグビー
についての「知識」なんてなくても、いい。ラグビーへの想いさえあれば、
それでもいい。
 招致委員の面々に、「ご自分の思う#1から#15についての役割やイメー
ジを書いてみて下さい」と紙を渡してみたい。内容が優れているとか拙い
とかではなく、きちんとラグビーに向き合っている人がどれだけいるか。
回収した紙をIRBに送りたい。大半が白紙でしょう。こういう人達、自分の
中のラグビー像すら持たない人達が、Rugby World Cupを呼ぼうという活
動の代表になっているんです。
「日本でのRWC」は本当にラグビーのためになるのでしょうか。

                        
                           2009/07/23 佳
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