No.101 Final thoughts after final decision 引用編
今更幾ら言ったところでもう決まってしまったからどうしようもないの
ですが、本当に2019年に日本でRugby World Cupを開催するべきなのか、
最後の(この間Final thoughtsを書いたのですが、今回は自分以外の人達
が書かれた文章を元にして)考察を記しておきたいと思います。
一つ目にとりあげる記事は、7/25発売の『ラグビーマガジン』から、R嬢
こと森本優子さんの連載“ラグビーに乾杯”。この春の国内でのジャパンの
観戦者数が僅か1575人だった、というもの。発売日時点ではまだ日本開催
が最終的に決定/発表されていなかったので、読みながら「国代表の試合に
1575人しか集まらないような国でW杯はないでしょ」と思っていました。
尤も、森本さんの文章は「だから日本はW杯をホストする資格なんかない」
という私の主張とは違い、極めて穏当かつ妥当な正論。協会に対しても、
U20s大会の運営で徹夜での業務が続いていたことなど同情の余地がある、
と(←私なら、ほれみろ協会の能力の無さを曝け出してるじゃないか、
U20sの運営でパンク寸前なんて言ってたらW杯はどうなるんだ、と斬るとこ
ろ)。
又、「ラグビーを愛する人と、代表チームのサポーター。ラグビーが根
付いている国に行くと、両者はほぼ重なるが、残念ながら日本はイコール
ではない」との指摘があったけど、これは自分にもあてはまるのでよくわ
かる。私は、ジャパンには強くなってほしい、良いチームになってほしい
と願っているものの、決してジャパン自体のファンではない(いつも“辛
口”ですみません)。ラグビーが好きなのに、ジャパンのラグビーやジャ
パンが好き、とは必ずしもつながらない。その事自体は日本のW杯招致反対
の直接的理由ではないけれど、逆に、賛成している人達というのは殆どが
ジャパンのファンというかジャパンのラグビーを支持する人達なのかもし
れない、という気は確かにする。
もう一つは、細かい事かもしれませんが、同じ『ラグビーマガジン』の
中の、読者からの「‥略‥新たなファン層獲得や、気持ちよく観戦しても
らうための配慮、施策が欠けているように思える。ラグビー協会にはきめ
細かい対応を望みたい」というお便りに対しての編集部のYさんのコメント。
「もし日本での開催となれば、ファンを拡大していく事は重要事項の1つに
なってきますよね」。‥ものすごくズレてやしないか、と感じてしまった。
“決まったら”という発想、それで良いのか?‥しかし、そもそも、日本
でW杯を!の賛成派(多数派)のかたがたには、“日本でW杯をやる事が決
まったら” ああなる、こうなる‥そういう発想が根底にあるわけですよね。
日本はW杯ホストする資格なし、という反対派(少数派)とは、この部分
が決定的に違う。
ちなみに、最終決定の前夜、そんな事をしても何もならないのに反対派
意見をネット上でサーチしてみたところ(数が僅かなので←泣&笑、大し
た時間もかからずにザッと一通り目を通せたのですが)、反対理由のベー
スは、私がこれまで繰り返し書いてきた事と基本的にほぼ同じ主旨で、ま
ず、W杯を手段として日本ラグビーを盛り上げようとする事、そういう意識
や態度、への反発。
「W杯招致実現で現状を打破して、未来を拓くことは、本末顛倒だったと
いうことになりはしないか? 現状をこう打破して、このような日本ラグ
ビーを作り上げつつある‥‥その総仕上げとしてW杯招致をする。このよう
なアプローチが正統なんだろう」
W杯招致の署名については、「(ファンの声を利用して世界を動かそうと
いうのではなく)あんたたちがまず俺たちの心を揺さぶってくれよ。協力
を求める前に俺たちに夢を見させてくれよ。W杯で活躍するジャパンの姿を
想像させてくれよ。お願いをする前に、やらなきゃならないことがあるん
じゃないのかい?」という声もありました。
“大成功”と評価されたU20sについても、「まずは大会の広報、告知活
動ですが一般的な認知度はゼロのままで終わってしまった印象です。とい
うことで、採点すれば零点でしょうか。関係者が一通りの努力をされてい
たことはわかるんですが、世間のラグビーという競技に対する認知度を考
えると「一通り」ではダメですよね。 全国紙、民放キー局に元ラグビー選
手が多いことを考えると、なにか手がありそうなものですが、そちらの方
もお粗末。広報大使氏の勤務するTV局が大会告知に割いてくれたのが、
大会開幕日、朝5時台の数分間だけという事実が無策、あるいは無力を象
徴していたようです。」
「(*日本での“記録的な”観客数に関して、いわゆるラグビー人気の
ある国では、却って“年代別大会”にすぎない今回の大会はそれほど重
要な大会とは目されていないという意味の記事の引用があり、)強い代
表とプロリーグを持ち、いつでもそれを見ることができる国(*引用さ
れていた国はNZ)の、この大会(*U20sJWC)に対する認
識、関心はそんなものです。ウェールズ大会も例外ではなく、こんな大
会をやってるんで暇で物好きな人は観に来てね、というのが観客動員の
基本スタンスでした。 それに対して(*日本での)今大会は2015or19年
のW杯招致を目指す日本協会が、7月の開催地決定を前にして、IRBに対し
て強い印象を与えるべく、いわば擬似W杯として招致、開催されました。
そしてただ券のばら撒き、ラグビー部単位での勧誘など、協会を挙げての
動員策がとられた結果が8万人という数字だったわけです。 ウェールズ大
会の5万数千人と、この8万人を同列で比較するのが適当でないのは自明の
ことだと思いますが。そもそも、この8万人にしても1会場1日あたりなら
4千人、擬似W杯としては十分な数字でないことは言うまでもありませんし
ね。」「2勝を掲げながら、全敗ででも早々と監督留任 発表。安いチケッ
トと無料招待。 閉会式の会長さんの笑顔がすべてを物語ってい るように
感じた。 ワールドカップ誘致活動。 これでワールドカップ誘致がほぼ決
まったのだろうが、イタリアや南アはどう思っているのだろうか。 」
等々、まるで私が書いてるみたいな(爆)文章も。
‥IRBはこういう声に耳を傾けてほしいよなあと願っていたのですが、
‥決まってしまいました。
皮肉にも、開催が決定した途端、ラグビーのニュースを年間に5回報道
するかどうかという程度のNHKで早速「日本にラグビーのW杯がやって来る
事になりました!」とやっていて、「“W杯が決まったら”多少はTV放映
が増えるっていうのは確かかも」と苦笑しました。
朝日新聞では決定前日からスポーツ欄で小さい特集記事を組み、決定
後も2日にわたって『ラグビーW杯がやってくる2019(上/下)』という
記事が掲載されました。特に『下』には、開催が決まったはいいが、課
題山積の状況について書かれています。
(以下、朝日新聞記事より)
‥略‥すべてチケット収入で稼がなければならず、1試合平均で4万3千人、
約200万枚を売ることが必要。‥略‥今年6月に日本で開かれた20歳以下世
界選手権はW杯への試金石とされ‥略‥ただ、集客に軸足を置き終始は二の
次だったため約6割は招待券などの無料入場者で、大幅な赤字だった。W杯
では、注目度に合わせて、1枚、1500円〜6万円超の席を用意。海外からの
客が多く見込めるとはいえ、どれだけ切符が売れるかは不透明で、協会幹
部は「W杯では1枚たりともタダはダメ」と強調する。‥略‥過去6大会で1
勝18敗1分け‥略‥10年後の活躍が期待されるU20日本代表は、先の世界選
手権で15位止まりで、来年の大会出場権を失った。‥略‥ 国内の登録チー
ム数は92年度に5103だったのが、07年度には3631にまで落ち込んでいる。
トップリーグの1試合平均入場者数は約5200人で、サッカーのJ2にも及ばな
い。
日本協会は10年後に競技人口を現在の12万人から20万人に増やす計画。
また、日本代表を11年に世界10位以内に、19年にはベスト8に入れたい考え
だが、道は険しい。‥略‥日本に突きつけられた課題を考えると、あと10
年は長いようで短い。
それにしても、決定前夜にサーチした意見の中にも出てきてたけど、IRB
への上納金(保証金)約150億円、これ、どうするつもりなんでしょうか‥。
この際、完全にヒトゴトとして眺めさせていただきます。
「もしも、本当に2019年大会の日本開催が決まってしまったら、反対派
の私も嫌だ嫌だと駄々をこねてばかりいずに、ワールドカップを素晴らし
い大会すること、日本とアジアに末永く築かれてゆくラグビーレガシーの
礎を打ち立てること、のために、少しは努力をしなくてはいけないのだろ
うなあ」と書いていました(No.98)が、こうして実際に決まってみると、
何だか、そんな気分になれません。むしろ、「自分達で招致して自分達で
賛成して歓迎したんだから、自分達で責任とってよね」と言いたいくらい
の心境。いざ、目の前に私の微細な力でも必要とされる状況があればもち
ろん力を尽くさねばと思うだろうけれど‥例えば子供達や実際の選手達に
対して何かできる事があればそれはやらなきゃ、と思うけれど‥「協会の
やる事へのお手伝い」なんかは「しーらないっ」って感じ。
<10年後に競技人口を現在の12万人から20万人に>
これも、どうやるつもりなんでしょう。この10年間に、協会の無策悪策に
よって減り続けている競技人口が、W杯開催が決まったからといって倍増す
るとでもいうのだろうか。
<11年に世界10位以内に、19年にはベスト8に>
‥よく言うよな。というか、そういう事言ってるようだからあかんのじゃ、
という感じです。何回か書いてるけれど、今のやり方では“そこそこ”強
くなるのが精一杯。10位以内なんて入れるわけないのに。こう言ってしま
うと身も蓋もないかもしれないけれど、日本が目指すべきなのは10位以内
に入る事ではなく、10位以内の国々に(時折、一発勝負で)“金星”をあ
げる事、そして、国の内外のファンから、「ジャパンというチームは、ラ
ンキングは決して上位ではないけれど何とも魅力的なラグビーをするよな
あ」と認められ愛される存在になる、そういうラグビーをする事。その2点
に尽きると思う。
冒頭の“ラグビーに乾杯” に「この春のジャパンはいったい何人の目に
触れ、どのくらいファンを増やしたのだろうか」という一文があったけれ
ど、さて今後の日本協会のお手並み拝見(期待してません)。
ところで、反対派意見をネット上でサーチしていた時、嬉しい事に、数
年前インターネットを始めた当時に一度たずねていたのに(お気に入りと
かに登録しておけば良かったのにそういう事をしておらず)その後どうし
ても見つからなかった、素敵なページを再発見する事ができました(今度
はちゃんとお気に入りブックマークに追加しておきました)!
‥つまり、彼女も反対派(笑)。私みたいに乱暴な表現ではないですが、
ベスト8に進めないような国が開催国となるのは果たして、ラグビーのW杯
にとって、ラグビーにとって、本当に良い事なのか、という事を2011年W杯
の招致活動の際に書いてました。
と書きつつ今見たら、丁度今日、次の一文がアップされていました。「先
月28日にご承知のとおり2019年世界ラグビーワールドカップ開催国に我が
国が選ばれました正直な話し、楽しみ・・というよりは不安の方が先にたっ
てしまうのは私だけではないはず。もちろん!世界ナンバー1の試合を自
国で観られることには本当に嬉しい!しかし、開催国としての受け皿が果
たして・・・開催国としてやはり予選落ち・・というのは絶対に観たくな
いし・・観客動員数もIRB8カ国以外の試合でもスタンドは埋まるのか・・・
?とか・・・グランドはちゃんと整備できたものを提供できるのか・・?
とか・・10年後というのは、本当にあっと言う間の時間でしかありません
特にその前の大会は折りしも“王国イングランド”先日のU20の試合を観て
いてすでに若手・子供達の指導がこれからの我が国選手育成について大き
な差があることに歴然としていました。現在高校生、大学生を指導してい
る素晴らしい指導者達へもう少し協会は目を向けても良いのではないかし
ら・・・と・・・そんなこともふと、頭を過ぎりました」
で、突然身近な話になるのですが、昨年、明治が上田RS長野RSの子供達
と交流会をしているところに出くわし「来年は安曇野RSもぜひ」とお願い
してきて(No.59参照)、実際、上田/長野のコーチさんからは「明治から
日程の連絡が入り次第お知らせします」と言っていただいていたのですが、
29日、今年は交流会を実施しない旨の手紙が明治から届いたそうです。
長野RSのMコーチからのメール
「‥略‥想像するに、監督が吉田氏に代わり、大学一を目指すチームは、
それどころではない。というところですか?W杯が決まりましたが、ただ
招致の目的や協会のビジョンが明確ではありません。ミニ・ジュニアの育
成・協力なくしては、成功は、しません。」
思わず次のように返信してしまいました。
「‥略‥明治も、昨年度は大学選手権出場を逃すなど昨今の成績低迷の状
況から脱して大学日本一を目指すために自分達の強化に専心したい事情が
あるのでしょうが、子供達への普及育成という視点が欠けているのだとし
たら、たとえ目標通りの好成績をあげたとしても、トップレベルのチーム
のあるべき姿とは思えませんね。おっしゃる通り、子供達がラグビーって
やっぱり楽しいなと思ったり、ああいう選手になりたいなあと憧れる存在
を作ったりという取り組みが基本のところにない限り、W杯開催など、ただ
見本市を呼んで来るのと変わりません。‥略‥」
さて、『ラグビーマガジン』からもう一つ。スポーツジャーナリスト
の大野晃さんのコラム“楕円球界 定点観測”。言い足す必要なく、今
のジャパン、日本のラグビー、の問題点を指摘してくれているので、こ
れで最後(今度こそ最後)を締めさせてもらう事にします。
「‥略‥フィジー、トンガはモールを苦手にしているから通用するが、
パワープレーも強力な南半球3強国や欧州勢には有効な攻撃策とは思えな
い。まして、日本ラグビーの魅力とはいえまい。
接戦が期待を抱かせはするが、内実に大きな変化はない。‥略‥(外国
勢メンバーが)展開の仕掛けでも、トライ奪取の場面でも、個人技でリー
ドし、日本人FWはスクラムに踏ん張って、モールを押すというのが日本代
表の実相だ。
このスタイルを継続していくのか、日本人バックスを育てて変えていく
のか。長期的な日本代表強化の方向が見えてこない。‥略‥
日本協会が、日本ラグビーをどう発展させるのかは霧の中だが、派手
なワールドカップ開催で世界トップの仲間入りを狙うというのなら、興
業屋の発想にすぎないではないか。
‥略‥
夢ばかりが喧伝されるが、日本代表の現状分析や将来の方向性、ラグ
ビー界全体のレベルアップ方針、すそ野の拡大策を明確に示さない日本
協会に日本ラグビーのリーダーとしての資格はあるのか。」
2009/08/01 佳
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