No.130 June tests

 FIFA World Cup一色の日本のメディアに、「今、南アで行なわれている
のは、サッカーだけじゃないのよ」と言いたくなる。そう、6月はラグビー
の南半球ホーム・テスト・シリーズの季節。

 ケープタウン、ニューランズ・スタジアム。W杯/Tri Nations/Super 14
の王者である南アが迎え撃つのは、今年のSix Nations/Heineken Cup覇者
のフランス。南北を代表するチーム同士の対決、French Rugbyに目覚めつ
つある私(冗談ですよ)としては、両国の力関係がどの程度なのか興味
津々。
 が、開始早々ホームチームが格の違い(と言いたくなる)を見せつける
トライ。そしてこれを皮切りに余す所無く力を発揮したSpringboksが42
対17で余裕の勝利、北半球覇者のプライドを切り裂いた‥わけだけど、
何と言うかBoksが鮮やかすぎてフランスとしてはやられたーという気がし
ないのでは。あまりに見事にスパーッと切られたら、切られた事に気がつ
かない、どこが切られたのかわからない、そんな感じでは。と思った。
まあ、つまり、それくらい南アは圧巻だった、ってことですが。
「今現在、世界のトップは南ア(だろう)」と認めつつ、南アの今後に
不安材料があるとしたら中心選手であるベテラン勢の年齢かな、‥など
と考えていたけれど、初選出の面々もあっぱれな活躍で、これなら新旧
交代も何の心配もせずに済みそう(‥って、ABsファンとしては凄く心配
なんですけど)。

 Live放送だったこの一戦に続き(土曜の夜中に)放映されたのが、そ
のABs対Ireland(当日録画放送)。
 ファイナルスコアは66対28。
前半15分にHeaslipが“膝蹴り”でレッドカード。ただでさえ厳しい試合
なのに、14人でABsに立ち向かわなければならないのはいかにも不利。
更にイエローまで出て13対15での戦い。ABsにいいように翻弄され、35分
で38対0。フランスの場合は、プライドを切り裂かれたと言っても「ス
パーッ」という感じでダメージは意外に少ないのでは、という印象だっ
たのだけれど、Irelandの場合には「ズタズタ」の様相。
しかし、ズタズタのぼろ雑巾のまま終わらないのが、IrelandのIreland
たるところ。完敗には違いないけれど、38対0からあとの45分間は28対28
なわけで、五分で伍したとも言える(しかも14人で)。
 Irelandが凄いのかそれともABsが情けないのか? 
ABsは後半はダメだった、詰めが甘い、DFが機能していない、‥ と批判は
幾らでも出来るけど、シーズン初戦で詰めがDFがと大騒ぎしたり心配した
りする必要などないでしょう。
ABsは、あれはIrelandが凄いんだ、不屈のIrish魂さすがなり、と潔く相
手に拍手を送り、あとは自分達(←殆ど、私達、という気分なのだから
困ったもんだ)の良かったところを喜び、自信を持てば良いのでは。
 <良かったところ> 
・初キャップ(スタメン)のBenson StanleyとIsrael Daggはどちらも
合格点。無難に、じゃなくて、一生懸命、ミスを恐れず、自分の力を出そ
うとしていたのが良い。彼らだけでなく、DCやCory Janeはじめ全員が、
出し惜しみなく、躊躇なく、思い切りの良いプレイをしていたと思う。
去年のホーム・テスト・シリーズでは「あー、気持ち悪い」と言い続けて
ましたが、この試合はその点すっきり。
・もう一人の初キャップスタメンBen Franks。PRはちょっと見た位じゃ
私みたいな素人にわかるはずもないので評する事はしませんが、それにし
てもFranks Brothersで1番&3番を組む、兄弟が同時にABsのテストマッチ
に出る(Benは初テスト初トライまであげた)、ってすごいことだなあ。
・今回初選出されたあとの3人も、全員キャップを獲得しました。
Victor Vito(ハンサムで知性的でステキ←‥こんなコメントでいい
の?)、Sam Whitelock(Brad Thornはともかく、どうもNZのLOはやや
激しさに欠ける気がするので、この試合で見せたような激しさを今後も
期待)、そしてAaron Cruden。Crudenは、僅かな出場のため良い悪いの
判断まではつかなかったけど、皆より頭一つ位小さかったので、やっぱ体
格的にはキツイかなあ、と思った。でも、ぜひ頑張ってもらいたいという
か小さくても通用するところを見せてもらいたい(DCだって小柄だし)。
試合前の国歌斉唱で一列になっている時、昨季一足先にBlack Jerseyを着
た“先輩”のGuilfordがCrudenとDaggの間に入り、彼らを勇気づけるよ
うに、左手をCruden(昨年のU20JWCの盟友)、右手をDagg(Hawkes Bay
のチームメイトであり親友)の背にしっかりと回していたのが印象的だっ
た。
・前回、「これがCenterだ、というプレーを見せて」と書いたConrad
Smithがまさにその通りの活躍をしてくれて感激(笑)。素晴らしかっ

・Daggとの連携がうまくいかなかった直後(試合中)、
Janeが「何やってんだよ、おまえ。あそこでまっすぐ突っ込むヤツがあ
るかよ。こうだってーの(クロスする角度を手で示す)。わかった
か!?」とかって(注:セリフは想像です)真顔で言ってて、(ベ
ストを尽くして出るミスには)誰も怒ったりしないけど、「それは違う
だろっ」というプレーにはシビアだなー、と思った。で、泣きべそをか
く(注:脚色です)Daggの背中を、横を通りざまにSmith が「ぽん」と
叩いて行く。‥んー、いいなあ(笑)。

 ところで、先程、小さくても通用‥と書きましたが、むしろ、全体に
大きい人間が殆ど(大きい人間ばかり)の中では小ささが却って有利に
働く(ことがある)はず、というのが私論。南ア対仏戦で、南ア
WingerのAplonが大男達の間をスルッとすり抜けるように突破してトライ
を決めた姿は、まさに“小良く大を制す”。
それにしてもホント南アって層が厚いというか、大きさ、パワー、ス
ピード、反応の速さ、しつこさ‥様々な要素様々な個性の選手を非常に
効果的なバランスで選んでるなあ。セレクターが良いんですかね。

 で、ともかく南アには感服しましたが、すぐ続けて見たABsにも
「Springboksと比べて見劣りする」などと失望することはなかった。
SpringboksはSpringboksで疑いなく強いし見事なのだけれど、ABsは― 
美しいラグビー。
もちろん、飾りやメッキ、装飾による美しさではなくて。自然の中で清
流がほとばしり流れるような。
例えば超難解な証明問題があるとして、普通の人がゴチャゴチャ色々あ
れやこれやと説明を試みたりするところを、天才はたった一行で証明し
てみせる。その一行は、見せられてみれば「なるほど」「それしかない
な、それが一番だな」と誰もが納得する解答だけれど、それがスラッと
出て来るのは天才だけ。
ABsのラグビーというのは、そういう、オンリー&ベストの解答(プ
レー)を瞬時にサッとやってのけるようなものなのかも。そしてそれ
は、プロとして鍛えられる能力というよりは(実際には当然高度なト
レーニングが必須でしょうが)天性のものや土壌や文化によって身体に
染み込んだもの、のように感じられる。

 やっぱり私はABsのラグビー、好きだな‥と思えた週末でした。
                        
                           2010/06/14 佳

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